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声明・総会決議
少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明
- はじめに
本年6月17日に選挙権を18歳以上に引き下げる公職選挙法改正法案が参議院で可決、成立され、その附則に「民法、少年法その他の法令の規定について検討を加え、必要な法制上の措置を講ずるものとする」とされた。これに合わせて、自由民主党は、「成年年齢に関する特命委員会」(以下、「特命委員会」という。)を設置し、少年法の適用年齢を18歳未満へ引き下げる議論をしている。
しかし、法律の適用年齢は、各法律の立法趣旨や目的ごとに個別具体的に検討されるべきであり、「権利を持つ以上、義務や責任も負うべきである。」ということのみで決定されるべきものではない。
以下で述べる理由のとおり、当会は、少年法の適用年齢を現行の20歳未満より引き下げることには強く反対する。
- 少年法の適用年齢引下げを必要とする具体的な立法事実がないこと
報道によると、特命委員会では、続発する凶悪な少年犯罪に対処するため、少年法の適用年齢も引き下げるべきであるとの意見が出されたとされる。
しかし、そのような認識は、明らかに事実に反し、誤っている。
すなわち、少年の刑法犯の件数については、2013年は9万件余にすぎず、1983年の3分の1以下である。特に、重大事件とされる殺人事件(未遂も含む。)については、1965年頃までは400件を越えていたが、近年は顕著な減少傾向がみられ、2014年は50件にとどまっている。このように少年による犯罪において、事件数の増加や凶悪化は、いずれも認められない。
現行の少年法は、20歳未満の罪を犯した少年に対して、全件を家庭裁判所に送致することによって、裁判官や家庭裁判所調査官、少年鑑別所の技官、付添人等が少年本人の性格や生育環境、交友関係等における問題点を把握し、それらの問題点を解決するために様々な教育的な試みを講じている。また、処遇先の一つである少年院においては、刑務所に比して小規模で個別的な指導支援が可能であり、様々な教育的プログラムが組まれている。これらの現行の少年法による処遇がなされ、有効に機能してきたからこそ、数多くの少年の更生が図られ、上記の少年事件の事件数の増加や凶悪化がいずれも生じるには至っていないのであるから、18歳、19歳の少年を少年法の適用範囲から外すことを必要とする理由は全くない。
また、現行の少年法においても、少年による重大事件については、成人と同様に刑事裁判手続に付され、重い刑罰が科されうるようになっている。特に、2014年6月には、少年に科される刑罰について、厳罰化する方向での改正が行われたばかりである。
- 大多数の少年事件に多大な悪影響を及ぼし、一般社会にも弊害を生じさせること
仮に少年法の適用年齢を18歳未満に引き下げると、18歳、19歳の少年は刑事手続で処分されることになる。この点、検察統計によると、2013年の刑法犯の起訴率は約16.9%であって、少年法のもとでは保護処分を受けることになるであろう少年については、成人後の初犯として起訴猶予となり、むしろ多くのケースで少年法の適用より軽い処分となることが予想される。しかし、起訴猶予を受けた少年は、教育や環境調整などを通じて少年の抱える問題点の解決がされないまま社会に戻されることになり、結局、再び罪を犯してしまう危険が増えることになりかねない。家庭裁判所において扱う少年の約4割が18歳、19歳の少年であることからも、少年法の適用年齢の引下げは、多くの少年から適切な手立てを施された立ち直りの機会を奪うことになり、結果的に犯罪抑止につながらず、治安を悪化させることになりかねないなど、大多数の少年事件に対して多大な悪影響を及ぼし、一般社会にも弊害を生じさせることになると言わざるを得ない。
- 結論
少年法においては、可塑性が期待される少年に対して成人の刑事手続とは異なる処分を行い、もって少年の健全な育成を期するところに法の目的があることから、国民主権の権利拡大としての公職選挙法の適用年齢と連動させる必然性は全くない。
そして、少年法の適用年齢の18歳未満への引下げについては、それを必要とする具体的な立法事実が何ら存在せず、むしろ少年法が果たしてきた少年の矯正教育を通じた再犯防止の対策を後退させることになり、その結果として、一般社会の安全に重大な悪影響を及ぼしかねないものである。
よって、当会は、少年法の適用年齢を現行の20歳未満より引き下げることには強く反対する。
2015年7月11日
山梨県弁護士会
会長 關本喜文