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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

市町村における消費生活相談窓口の充実を求める意見書

第1 意見の趣旨
 山梨県及び県内各市町村は、消費者被害の予防と救済のために、以下の施策を実現すべきである。

  1.  各市町村は、専門相談員による週5日終日の相談ができる体制を整えること
  2.  各市町村は、相談員の処遇改善をすること
  3.  各市町村は、前2項の目的を達成するため、十分な予算を確保すること
  4.  県は、各市町村の相談処理に対し、積極的な支援をすること

第2 意見の理由

  1.  はじめに
     消費生活センターなど地方自治体の消費生活相談窓口は、消費者に最も身近な相談窓口であり、そこに寄せられる消費者相談は、高齢者からの相談を中心に年々増加傾向にある。特に、週5日終日の相談窓口を設けている甲府市消費生活センター、富士吉田市消費生活センターにおける増加率は顕著である。例えば、甲府市消費生活センターの相談件数については、平成22年は593件であったところ、同24年は1000件を超え、同25年は1208件と3年で倍増している。このように、消費生活相談窓口の重要性が年々増していることは明らかである。
  2.  専門相談員による週5日終日の相談体制を整えることについて
     消費者被害の特徴として被害金額が少額である事例が多く、また、クーリング・オフ等による被害回復を図るため、早急な対応が必要となることが多い。したがって、消費者問題の解決には、安い費用で、素早く、的確なアドバイスを受けられる体制作りが不可欠である。そのためには、地域住民が直接接する身近な市町村に、常設の消費生活相談窓口が設置されることが必要となる。消費者安全法10条2項は、市町村に専門相談員がいる消費生活相談窓口の設置を努力義務として課しており、消費者庁は、人口5万人以上の全市町及び人口5万人未満の市町村50%以上に消費生活センターを設置すること、並びに消費生活相談員の資格保有率を75%以上に引き上げることを政策目標として掲げている。
     しかし、関東甲信越地域では、すでに政策目標を達成した都県が複数あるにもかかわらず、山梨県内では、資格を持った専門相談員による週5日終日の相談窓口を設置している市町村は、甲府市と、富士吉田市(広域窓口)の2つのみで、目標達成に遠く及ばない。山梨県は、関東甲信越地域において消費生活センターの設置率が最も低く、他都県に比べ、消費者救済体制の整備が遅れていることは明らかである。
     そこで、どこに住んでいても質の高い相談・救済を受けられる体制の整備のため、単独か、あるいは複数の市町村が共同で、専門相談員による週5日終日の消費相談窓口を設置することが重要である。また、平成26年6月に改正され、近く施行予定の消費者安全法では、消費生活センターを設置した都道府県及び市町村は、センターの組織、運営、情報管理その他内閣府令で定める事項ならびに相談処理の基準等を条例で定めることが義務とされた(消費者安全法10条の2)。そこで、県及び各市町村は、専門相談員による週5日終日の消費相談窓口を設置し、法律で定められた事項を早急に条例で定めるべきである。
     また、近時、高齢者の消費者被害が社会問題となっている。当会は、平成26年2月、各市町村に対して、高齢者の消費者被害の予防と救済のための見守りネットワークを作るよう求める意見書を発表している。しかし、各市町村に専門相談員がいる消費生活相談窓口がなければ、十分なネットワーク作りは困難である。したがって、このような観点からも、各市町村に、専門相談員のいる窓口を設置することは必要不可欠である。
  3.  相談員の処遇改善について
     これらの相談体制を充実させるためには、まず、相談担当者の員数確保や育成が重要である。そして、専門相談員の配置によって相談件数が増加する傾向がみられることから、専門相談員の確保が必要である。この点、全国の消費生活相談員のうち、消費生活専門相談員等の資格保有の割合は74%である一方、山梨県内の市町村では、甲府市に3名、富士吉田市に2名、韮崎市、南アルプス市に各1名ずつしか保有者が存在しない。消費者保護のために、より実効性のある相談とするには、専門相談員の員数確保及び育成が必要である。消費者安全法11条も、相談員の研修実施、相談員その他の消費生活センターの事務に従事する人材の確保及び資質の向上等を求めている。
     次に、消費生活相談員の処遇を改善することが必要である。消費生活相談員は、複雑化、高度化する消費者問題に関する専門的知識だけでなく、聞き取り、助言、交渉について実務経験の積み重ねがあって初めて習得できる技能が求められている。しかし、現在、消費生活相談員は、期限付きの嘱託職員や非常勤職員として勤務する者が大半である。仮に「雇止め」がなされると、日々の研鑽と実務経験の積み重ねにより獲得した知識・技術を活用する機会が失われ、消費者が質の高い相談・あっせんを受ける機会を奪われることになりかねない。この点、消費者庁と総務省は、同じ者を再度任用することは排除されないことを共通認識としており、全国では、平成26年4月時点において、消費生活相談員の86.4%が、雇用期間の更新回数を制限されず、職員としての地位の安定と経験の積み重ねを可能としている。そこで、県内においても、消費生活相談員の専門性の向上に結びつくことから、その地位の安定と処遇の改善のために、継続雇用を可能とする制度の整備が重要である。
  4.  予算確保について
     専門相談員の員数確保や育成、継続雇用といった体制作りには、予算確保が必要である。現在、国からの財政的支援として、地方消費者行政活性化基金や地方消費者行政推進交付金などが導入されているが、今後の支援については必ずしも明確ではない。しかし、消費者問題への対応の重要性が増している昨今の状況からすれば、消費者行政事業を後退させない財政的措置が必要であり、国からの財政支援の有無に関わらず、各市町村は十分な予算付けをすべきである。平成26年度の全国における市町村(政令指定都市を除く)全体の地方消費者行政活性化基金以外の消費者行政関連予算は、住民一人当たり平均55.6円であるところ、山梨県内の全市町村における同予算は、住民一人当たり平均43.9円と低い結果となっている。また、県内の各市町村における格差も大きい。そこで、山梨県内の消費者が不利益を被らないよう、また県内のどこに住んでいても質の高い相談・救済を平等に受けられるよう、各市町村において十分な予算を確保することが重要である。
  5.  県の各市町村に対する支援について
     近く施行予定の消費者安全法は、都道府県は、市町村が行う消費者からの相談・あっせん・情報提供等の事務について、「必要な助言、協力、情報の提供その他の援助を行うこと」(8条1項1号)、市町村が他の市町村との共同処理や委託をしようとするとき関係市町村の調整を行うこと(同条3項)、市町村による消費生活相談業務を援助するため、「指定消費生活相談員」を配置して助言、協力、情報提供をすること(10条の4)などを規定している。
     そこで、県は、消費生活相談体制が不十分な市町村に対し、積極的に相談処理の助言や共同処理を行うとともに、複数の市町村が広域連携による消費生活センター共同設置をめざすことにつき、積極的に調整役を果たすべきである。
  6.  まとめ
     よって、当会は、山梨県内における消費者被害の予防と救済のため、県及び各市町村に対し、意見の趣旨記載のとおりの施策を行うよう求めるものである。
     当会も、相談員の研修、設置条件の検討、条例策定等を県及び各市町村と協力し、消費者被害の防止と救済に全力で取り組む所存である。

2015年7月13日

山梨県弁護士会
会長 
關本喜文