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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

労働時間規制を緩和する労働基準法等の一部を改正する法律案に反対する会長声明

 本年4月3日,政府は,「労働基準法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定し,立法に向けた手続きが進行中である。

 本法案では,「特定高度専門業務・成果型労働制」,通称「高度プロフェッショナル制度」(以下「本制度」という)の創設が定められている。

 本制度は,高度の専門的知識等を要する業務において,年収が平均給与額の3倍の額(現在は1075万円を想定)を相当程度上回る等の要件を満たす労働者については,労働基準法で定める労働時間並びに時間外,休日及び深夜の割増賃金等に関する規定のほか,休憩・休日の付与規定も適用しないものとしている。

 つまり,本制度の対象となった労働者は,労働時間等の規制が外されるばかりか,残業代も支払われなくなることになる。本法案は,まさに『残業代ゼロ制度』の導入にほかならない。

 そして,対象業務や年収要件は省令に委ねられ,法律の改正をしないままの対象拡大が可能である。現に経済団体は,年収要件を400万円以上とすることを要望しており,この制度がいずれ拡大される方向にあることは否定できず,「残業代なしで無制限の労働を強いられる」という状況が一般化されることにもなりかねない。

 そもそも労働時間は,労働者の健康,生活の根本に直接影響する要素であり,長時間労働が健康上のリスク要因であることは全ての労働者にいえるから,年収や業務内容によって,労働時間規制をしなくてよいということにはならない。むしろ,2014年調査によれば,OECD26カ国の1日あたりの平均労働時間は259分(休日含む)であるところ,我が国は375分と平均を遙かに上回り,長時間労働の蔓延がむしろ問題となっている。したがって,長時間労働をどのような場合に許容するかという議論ではなく,過労死・過労自殺の温床となる長時間労働をいかに規制するかということこそ議論されなければならない。

 なお,本制度を個別に適用するときには各労働者の同意が必要であるとされているが,雇われの立場でありながら使用者側の要求を拒否することを現実的に選択できるのかといえば疑わしいと言わざるを得ない。使用者と労働者の立場が対等でなく,使用者の要求を拒絶することが困難であるからこそ,労働時間等を法律で定め,強制的なルールとしてきた労働法の基本的な考え方からしても,「同意があれば労働者の権利を奪って良い」ということは許されるべきでない。

 当会は,労働者の命・健康,ワークライフバランスを守るため,労働時間規制緩和を指向する制度の創設を行う本法案に強く反対する。

2015年5月11日

山梨県弁護士会
会長 
關本喜文