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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

商品先物取引についての不招請勧誘禁止撤廃に反対し、改正金融商品取引法施行令に同取引に関する市場デリバティブを加えることを求める会長声明

  1.  不招請勧誘とは、業者が、勧誘することについて相手客の同意を得ることなく勧誘することを言う。具体的には、商品取引契約の締結の勧誘の要請をしていない顧客に対し、訪問し、又は電話をかけて、商品取引契約の締結を勧誘することであり、商品先物取引業者がこれを行うことは原則として禁止されている(商品先物取引法第214条第9号)。
  2.  わが国では、証券・金融商品に関する金融商品取引所と商品先物取引に関する商品取引所とがそれぞれ別個に存在しているが、取引システムの共通化による効率化と商品先物取引市場の低迷を受け、これら両取引所を統合して総合的な取引所(以下、「総合取引所」という。)の実現のための制度整備が行なわれている。
     これまで、証券及び金融商品は、金融商品取引法で規制されており、不招請勧誘禁止の範囲は、店頭取引(証券会社と顧客が相対(あいたい)で取引するもの)の場合のみであった(金融商品取引法第38条第4号、同法施行令第16条の4)。
     他方、商品は、商品先物取引法で規制され、不招請勧誘禁止の範囲は、店頭取引及び取引所取引(投資家の売り注文と買い注文を取引所に集めて、売買を成立させるもの)に及んでいた(商品先物取引法第214条第9号、同法施行令第30条)。
     しかるに、今般の金融商品取引法の改正により、証券・金融商品、商品の全てが金融商品取引法で規制されることになった。この改正金融商品取引法は平成24年9月に成立しており、本年3月に施行予定であるところ、不招請勧誘の具体的な範囲については施行令で定められることになっており、現在、施行令の整備がなされている。
     これまでは、商品先物取引の方が、取引所取引を含む点で、証券・金融商品よりも不招請勧誘禁止の範囲が広かったが、金融商品取引法改正によって、商品についても同法が規制することになり、同法施行令が現状のままだとすると、商品についての不招請勧誘禁止の範囲は、現在の証券及び金融で規制されている範囲(店頭取引のみ)まで狭くなってしまう。
     そのため、現状よりも不招請勧誘禁止の範囲が狭くならないように、取引所取引についても不招請勧誘禁止に含めるよう同施行令の改正を求める必要がある。すなわち、この施行令の改正において、不招請勧誘が禁止される取引(金融商品取引法施行令第16条の4)に商品先物取引(商品関連市場デリバティブ)が加えられなければ、総合取引所に上場する商品先物取引については、不招請勧誘禁止規定が撤廃されることになってしまう。
  3.  この点、昨年6月19日、内閣府副大臣が、衆議院経済産業委員会において、証券・金融、商品を一括的に取り扱う総合取引所での円滑な運営のための法整備に関する議論の中で、委員の質問に対し、「商品先物取引についても、金融と同様に、不招請勧誘の禁止を解除する方向で推進していきたい」旨の答弁をした。この答弁は、金融庁が、総合取引所で取り扱われる商品先物取引について、不招請勧誘禁止撤廃を検討していることを意味するものであり、到底看過することができない。
  4.  そもそも、商品先物取引は、その仕組みが複雑で一般消費者には理解し難く、且つ、相場変動要因も多種多様であり、一般消費者がその仕組みを正確に理解した上で変動が激しい相場を的確に予測し取引を行なうことは極めて困難な取引である。また、同取引は証拠金取引であり、証拠金の何倍もの値段の取引を行なうため、僅かな価格変動により多額の損失が生じるおそれがあるリスクの極めて高い取引である。一方で、商品先物取引業者の収入源である手数料は、委託者がより多く且つ頻回に取引するほど多く得られる。そこで、悪質な業者が、投機経験の乏しい一般消費者を取引に引き込み、担当外務員に頼らざるを得ない状況を利用し、より多くの資金で大量・多数の取引をするように誘導し、一般消費者にその属性に照らして過大なリスクと手数料の負担を負わせることが頻発した。その結果、消費者が生活資金を一挙に失って人間不信、家庭崩壊、精神疾患、自殺などの悲惨な状況に追いやられた事案などが後を絶たなかった。
     商品先物取引の不招請勧誘禁止規制は、このように先物取引の知識も興味もなく勧誘を希望していなかったにもかかわらず、突然の電話や訪問による勧誘を執拗に受け、被害が多発したことから、消費者・被害者関係団体等の長年にわたる強い要望によって、平成21年の商品取引所法改正により、ようやく導入されたものである。
  5.  上記改正法が施行された平成23年1月1日以降は、商品先物取引に関する相談、被害件数は、減少傾向を見せるようになってはきたが、いまだ、禁止規制を潜脱する業者の勧誘により、消費者が被害を受ける事例は相当数報告されており、禁止規制の解除を容認できる状況とは到底言えない。
     平成24年2月から6月にかけて開催された産業構造審議会商品先物取引分科会においても、有識者らが様々な角度で議論した結果、「不招請勧誘の禁止の規定は施行後1年半しか経っておらず、これまでの相談・被害件数の減少と不招請勧誘の禁止措置との関係を十分に見極めることは難しいため、引き続き相談・被害の実情を見守りつつできる限りの効果分析を試みていくべきである」、「将来において、不招請勧誘の禁止対象の見直しを検討する前提として、実態として消費者・委託者保護の徹底が定着したと見られ、不招請勧誘の禁止以外の規制措置により再び被害が拡大する可能性が少ないと考えられるなどの状況を見極めることが適当である」との報告がなされており、不招請勧誘禁止規制を維持することが確認されたばかりである。
     不招請勧誘禁止規定の撤廃を検討する理由が、商品先物取引市場の活性化などにあるとしても、それは、一般消費者に対する望まない勧誘を許し、商品先物取引のような複雑で理解しがたくリスクの極めて高い投機取引に不向きな一般消費者を引き込んでまで実現すべきではない。
     にもかかわらず、何らの検証もなされないまま、今回の内閣府副大臣の発言のように、同規制が撤廃されてしまえば、消費者保護、被害撲滅に向けたこれまでの努力は水泡に帰し、深刻かつ悲惨な被害が再び増加するおそれは極めて高い。
  6.  よって、当会は、不招請勧誘禁止規定撤廃に強く反対するとともに、総合取引所に上場する商品先物取引について現行の不招請勧誘禁止を維持すべく、金融商品取引法施行令の改正において、不招請勧誘禁止規制の対象に商品先物取引(商品関連市場デリバティブ)を加えるよう強く求めるものである。

2014年2月8日

山梨県弁護士会
会長 
東條 正人