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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

任意整理における統一基準に関する会長声明

第1 声明の趣旨
貸金業者各社は、利息引き直し計算後に残債務を有する多重債務者との和解交渉において、「多重債務者に対する任意整理を処理するための全国統一基準」に則った任意整理に応じることを強く求める。
第2 声明の理由
  1.  「多重債務者に対する任意整理を処理するための全国統一基準」(以下、「本件統一基準」という。)では、多重債務者に対する任意整理において弁護士が最低限遵守すべき事項として、「第1 全取引経過の開示請求をすること、第2 利息制限法の利率に基づく残元本の確定をすること、第3 和解案の提示に当たっては、それまでの遅延損害金、並びに将来の利息は付けないこと」を挙げる。
     同基準の趣旨は、多重債務に苦しむ国民の経済的再生及び生活再建に資するためであり、これは任意整理手続が他の債務整理手続と同様に、依頼者の経済的再生及び生活再建に資することを目的とし、裁判外の手続とはいえ、法的整理に準じる性質のものであることに基づく。
     そして、同基準は平成12年の日本弁護士連合会における多重債務者救済事業拡大に関する協議会において採択され、その後全国の単位弁護士会において同基準もしくはこれに準じた各単位会の基準を制定して運用されてきた。
     現在では、ほぼすべての消費者金融会社が任意整理において本件統一基準を受け入れているほか、法的整理手続である特定調停手続やその17条決定においても裁判所は同基準を尊重し、原則として元本のみでの和解をすべきとの運用を行っている。
     かかる実務の運用からは、本件統一基準は、任意整理における法規範に準ずる地位を有していると言える。
  2.  ところが、近時、一部の貸金業者において、引き直し計算後に多重債務者に残債務が残る事案において、多重債務者側が本件統一基準に沿った合理的な和解案を示しているにも関わらず、多重債務者の資力では支払が不可能であることが明白な一括弁済を求め、また、分割弁済であっても、高額な頭金の支払いや、経過利息、将来利息、遅延損害金を要求するという事例が頻繁に見られるようになっている。
     貸金業者が自社の利益にのみ固執して上記のような対応を取れば、各債権者間の公平を害するだけでなく、多重債務者の弁済計画そのものを困難にさせ、挙句には債権者にとっても望ましくないであろう破産や民事再生といった手段を選択せざるを得ない結果となる。
     また、一部の貸金業者が本件統一基準を遵守しないことで、貸金業界全体に同基準を軽視する兆候が見られるという弊害も生じている。
     なお、裁判例には、貸金業者は、債務整理が円滑に進行するよう協力する立場にあり、取引履歴開示義務及び弁済方法について交渉に応じるべき義務があるものであり、この義務に違反して債務整理に誠実に協力する態度がない場合には、最終取引日以後の利息及び遅延損害金の発生を主張することは信義則違反、権利濫用となると判示したものがある(相馬簡裁平成18年2月1日判決)。殊に、消費者金融会社が法的倒産手続に入ったときに、一方で消費者金融会社が不当に得た過払金の返還額が大きくカットされ、他方で借り手の債務は1%も削られないという事態が見られるが、そこでは不公正が拡大された形で明らかになると言える。
     弁護士が提示する和解案は、多重債務者の収入及び支出に基づいて、返済が可能である金額として算出された合理的な案である。本件統一基準は、多重債務者の経済的再生というコンセンサスを前提として、貸金業者と多重債務者側の両者が長年にわたり尊重してきた基準であって、一部貸金業者の強硬手段によってその実効性が失われることがあってはならない。
     我々は、任意整理において、一部貸金業者による本件統一基準を軽視した対応に断固抗議するとともに、各貸金業者においては、本件統一基準に則った任意整理に応じることを強く求める。

2012年6月2日

山梨県弁護士会
会長 
清水  毅