1 経済不況に端を発した派遣切り・雇止めによる労働者の失業は社会問題になり、全雇用労働者の3割を超える非正規雇用労働者は、常に失職の危険にさらされている。昨年4月衆議院に提出された労働者派遣法改正法案は、雇用の安定を望む派遣労働者の声が必ずしも十分反映されておらず、労働者保護に値する抜本改正とは言い難い。したがって、当会は、上記改正法案について特に問題のある以下の4点について修正を求める。
2(1)まず、不安定な雇用、劣悪な労働条件を招来する登録型派遣は全面的に禁止すべきである。確かに、上記改正法案においても登録型派遣は原則として禁止されている。しかし、その例外となる政令指定26業務には専門業務とはいえない業務が含まれていることから、この専門業務を偽装した脱法行為を許容することで登録型派遣を禁止する趣旨が没却されてしまう。やむを得ず、登録型派遣禁止の例外を認める場合にも、真の専門業務に限定した政令指定26業務の厳格な見直しを早急に実施すべきである。
(2)つぎに、製造業派遣の禁止についても徹底すべきである。製造業は主として単純作業が多いことから、広く製造業の派遣を認めると、これに従事する労働者は、景気の動向に応じた雇用調整の影響を受けやすく雇用が不安定なうえ、差別的で劣悪な労働条件を余儀なくされることになる。しかし、改正法案では製造業の常用型派遣については容認されている。しかも、「常用」の解釈として雇い入れ時点で1年を超える雇用の見込みさえあれば「常用」に該当するなど拡張的な解釈運用がなされていると言われ、法の抜け穴と化している。したがって、例外的に製造業の常用型派遣を許容する場合でも、脱法の余地がないよう「常用」の厳格な定義規定を設けるべきであり、かつ、その内容は、期間の定めのない雇用契約に限ることを明記する必要がある。そうでなければ例外なく、製造業の派遣は全面的に禁止すべきである。
(3)また、改正法案では、派遣労働者の派遣先に団体交渉に応ずる義務について、何ら規定が設けられていない。これは派遣労働契約が、労働者と派遣元企業との間で成立する労務提供契約であり、派遣先企業との間には契約が存在しないことを根拠とする。しかしながら、派遣労働者の労働条件の多くが、派遣先企業により決定されている現実を改正法に反映させなければ現実に派遣労働者の保護を図ることができない。即ち、派遣先の団体交渉応諾義務を規定しないことは適当ではなく、契約形式の如何を問わず派遣先に派遣労働者の基本的労働条件を決定しうる実体がある場合には、派遣先企業に対しても使用者として団体交渉に応ずる義務があることを明記すべきである。
(4)最後に改正法案では、派遣先企業が違法派遣であると知りながら、労務の提供を受けた場合、派遣労働者から直接雇用の申込みがあった旨の見なし規定を創設した。評価すべき規定であるが、これを一歩進め、派遣先の主観的要件は削除するとともに、見なし規定適用の場合は、期間の定めのない労働契約の申込みであることを明記すべきである。なぜなら、改正法のままでは、主観的要件の立証責任は労働者側にあるため、見なし規定適用の実効性が損なわれるとともに、見なし規定の契約が有期労働契約などの場合には、期間の経過により雇い止めで対抗されるなど、見なし規定を設けた趣旨が徹底できない恐れがあるからである。
3 法改正は、まさに真の派遣労働者の保護、ひいてはわが国の労働者全体の雇用の改善に資するよう行うべきであり、派遣労働者の実態を踏まえた修正を強く求める。
2011年6月11日
山梨県弁護士会
会長 柴山 聡