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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

「布川事件」の再審無罪判決に関する会長声明

1967(昭和42)年8月に茨城県利根町布川で発生した強盗殺人事件いわゆる「布川事件」について、本日、水戸地方裁判所土浦支部は、櫻井昌司、杉山卓男両氏に対し再審無罪判決を言い渡した。
両氏は、別件逮捕後の取調べで犯行を自白させられたものの、第一審公判開始以来今日まで一貫して無実を叫び続け、1978(昭和53)年に無期懲役刑が確定した後も、日本弁護士連合会の支援を受け、再審請求を続けてきた。
当会は、長年に亘って無実を訴え続けた、両氏及び家族・支援者の皆様の労苦に思いを馳せるとともに、粘り強い弁護団の努力に深い敬意を表するものである。

本件は、もともと客観的証拠のないまま、あいまいな目撃証言と櫻井・杉山両氏の自白に基づいて起訴されたものであった。再審開始前の確定審においては、両氏の自白に信用性があるとされて無期懲役が確定していた。
しかし、再審請求審に多くの新証拠が提出され、特に多数の検察官手持ち証拠が開示されたことによって、目撃証言は捜査官の誘導によって歪められたものであったこと、自白と客観的証拠が合致せず、自白には信用性がないことなどが明らかにされ、本日の無罪判決に至ったものである。

本件においては、自白偏重の捜査、別件逮捕・勾留を利用した、密室における長時間・長期間の取調べ、自白の温床となった代用監獄の弊害など、冤罪の原因とされる刑事司法の問題点が典型的に現れている。特に、確定審において、一部録音された自白テープが自白の信用性を高める作用を果たしていたこと、また、後に開示された自白テープに編集痕が明らかになったことは、取調べの全過程の可視化を制度化する必要性を如実に示している。
また、本件では、再審請求審になってはじめて、未提出証拠の中から多数の無罪方向の証拠が開示され、再審無罪判決の有力な根拠となった。真実の発見と冤罪の防止のためには、全面的な証拠開示がいかに重要であるかを示している。

この冤罪事件により、櫻井・杉山両氏は43年の長きに亘って強盗殺人犯の汚名を着せられてきた。検察官が本判決を謙虚に受け止め、控訴することなく確定させ、両氏を被告人の地位から解放することを強く要請する。
さらに、このような冤罪の悲劇を二度と繰り返さないため、政府及び関係諸機関が冤罪の原因を真摯に反省・分析し、取調べの全過程の可視化、代用監獄の廃止、全面証拠開示の制度化など、冤罪を生まない刑事司法の実現に取り組むことを強く求めるとともに、当会も、今回明らかになった刑事司法制度の諸問題を解消するべく、あるべき制度の検討、提言を行っていく所存である。

2011年5月24日

山梨県弁護士会
会長 
柴山 聡