声明・総会決議
民法(債権法)改正に関する総会決議
第1 決議の趣旨
法制審議会において現在行われている民法(債権法)改正の審議について、東日本大震災の復興が実現するまで完全なる凍結を行い、復興後の平時の環境において広く民意の反映される体制のもとで、改めて審議を行うことを強く求める。
第2 決議の理由
- 民法(債権法)の全面改正の審議については、2009年11月、白紙の議論から開始されたにもかかわらず、わずか1年数か月の審議で中間的論点整理に関するパブリックコメントの募集手続直前に至っており、国家における基本法の改正作業にしては拙速の感がぬぐえない。
この改正作業については従前より様々な問題点を指摘されてきた。
- 国民の多様な意見を集約しなければならないのに、民間出身の委員が少なく、法制審議会民法(債権関係)部会の委員、幹事等の選任手続が不公正である
- わかりやすい民法への改正を目的としているのに、大幅に条文が増加することが予想され、かえって複雑にしている
- 壊れてもいないものを、比較法的関心に基づく学説的見地等から根本的改正を試みている
- 白紙からの検討を確認したにもかかわらず、事実上一部の学者の意見が改正案のたたき台とされている等々である。
- ところで、本年3月11日に発生した東日本大震災では、震災後2か月経過した現在においても、死者が1万4000人を、行方不明者が9000人をそれぞれ超え、11万人以上の被災者が避難を余儀なくされる未曾有の大惨事となった。未だ被災地は復旧の目途すら立っておらず、特に東北地方太平洋沿岸部を中心とした各地域は、その消滅を危惧されるほどの壊滅的な被害が発生している。
また、津波で破壊された福島第1原子力発電所による放射能汚染問題は、国際的な事故評価尺度で最悪のレベル7とされ、現在も予断を許さない深刻な状況が継続しており、その解決には十数年にわたる長期化の懸念すらある。
この様な状況下における法制審議会の喫緊の課題としては、震災からの復興に関する種々の立法策定作業であって、それを後回しにしてまで民法の改正作業を進めることはあってはならない。加えて、日本全体が震災への対応に追われ、今後長期にわたり国の基本政策の変更や平時には想定されなかった民事上の紛争も多発することが確実であるのに、市民の日常生活や企業の経済活動の基本を定める民法の抜本的改正を現時点で行うことは、大災害の混乱に拍車をかけ、国民生活に甚大な影響を与える恐れを否定できない。
- 民法(債権法)の全面改正にあたっては、広く市民、消費者、労働者、企業各種団体等に意見を求め、公正な手続で慎重な審議をしなければならないのに、全面改正ありきを前提に債務不履行など基本的なルールを変更する方向で審議が進められており、民間において改正の必要性やその範囲に関する議論が十分に尽くされているとは言い難い。
また、少なくともかかる大震災の発生した緊急時に様々な問題を秘めた民法改正を推し進めることは、国民の多様な意見を集約することができず、偏頗な内容の基本法となる危険性を払拭できない。さらには、震災に見舞われた地域においてはパブリックコメントなど募集されても対応が困難であることは自明である。
民意を正確に改正に反映させるためには、被災地の復興に最大限配慮し、復興の実現ができた平時の環境において、開かれた手続のもとで国家の基本法のあり方を改めて問い直す姿勢こそ肝要である。
2011年5月13日
山梨県弁護士会