声明・総会決議
非嫡出子の相続分差別撤廃を求める会長声明
- 民法第900条第4号は、子が数人あるときは各自の相続分が等しいことを原則としながら、そのただし書において、嫡出でない子の相続分を嫡出である子の2分の1とする旨の例外規定を置いている(以下「本ただし書」という)。嫡出でない子(非嫡出子)とは、いわゆる婚外子の多くを示すものであるが、その相続分について嫡出である子(嫡出子)と差別する本ただし書は、憲法第14条第1項の法の下の平等に反するものである。当会は、そのように考える立場から、衆参両院に対し、本ただし書を廃するための民法改正案を早期に上程、審議し、速やかに可決成立させることを強く求める。
- 最高裁判所第二小法廷は、平成21年9月30日、本ただし書が憲法第14条第1項の法の下の平等には反しない旨の合憲判断を示した。この判断が先例とするのは平成7年7月5日の最高裁判所大法廷決定であるところ、同決定の理由は、概要として、次の2点である。
- (1) 相続制度を定めるに当たっては、それぞれの国の伝統、社会事情、国民感情なども考慮され、かつ家族というものをどのように考えるかということと密接に関係しているのであって、これらを総合的に考慮した上で、相続制度をどのように定めるかは、立法府の合理的な裁量判断にゆだねられているものというほかない。
- (2) 民法第739条第1項は、「婚姻は、戸籍法の定めるところによりこれを届け出ることによつて、その効力を生ずる。」と規定し、いわゆる事実婚主義を排して法律婚主義を採用し、また、同法第732条は、重婚を禁止し、いわゆる一夫一婦制を採用することを明らかにしているところ、婚姻関係から出生した嫡出子と婚姻外の関係から出生した非嫡出子との区別が生じても、それはやむを得ないところといわなければならず、立法府に与えられた合理的な裁量判断の限界を超えたものということはできないのであって、本ただし書は、合理的理由のない差別とはいえない。
- しかしながら、そもそも子の相続権につき、どのような規定が平等と評価されるかということと、その父母の関係において法律婚主義が採用されているかということは、直接に連関しないはずである。すなわち、事実婚を排し法律婚主義を採用することが法律で定められ、またそのことが我が国の伝統などに沿うとしても、このことを理由に非嫡出子の相続分が嫡出子より少ないものと定められるいわれはない。この世に生を授かった子は、本人の意思、努力及び行いと無関係な事柄からは差別されることなく等しく権利を付与されるべきであって、このことは、親の死を契機とする相続の場面においても、もちろん妥当する。
また、社会においては、近時家族生活や親子関係についての多様なあり方が認められ、上記大法廷決定が前提とする「社会事情、国民感情」も、その多様性を尊重する時代となっている。統計上も、子を有しない夫婦の割合が増える一方で、出生数に占める非嫡出子の割合が増加している。このような時代背景からしても、本ただし書は、合理的な裁量の範囲とは到底言えなくなっているのである。
加えて、国際的にも、国連の女性差別撤廃委員会(CEDAW)や自由権規約委員会(CCPR)で、我が国の非嫡出子差別に対し、相次いで懸念が表明されている。
- しかるに、本ただし書改正(撤廃)案は、平成8年に法制審議会より上記論旨と同様の理由に基づいて答申されながら、それから10数年を経た今日においても、国会に上程されていない。
以上のことから、当会は、衆参両院に対し、本ただし書を廃するための民法改正案を早期に上程、審議し、速やかに可決成立させることを強く求める次第である。
2010年7月13日
山梨県弁護士会
会長 信田 恵三