この2か月のうちに、ヤミ金融に関して画期的な、新法に基づく手続の開始と最高裁による判決がされました。
まず、7月25日、検察官により、被害回復給付金支給法(平成18年6月成立)に基づく初めての手続開始決定がされ、五菱会ヤミ金融事件に関する支給手続が開始されました。
また、6月10日には、最高裁は、やはり五菱会ヤミ金融事件に関して、高松高裁判決を破棄して、被害者からヤミ金融に対し支払った全額について損害賠償請求を認め、ヤミ金融業者から被害者への貸付金額は損害額から控除しないという判決を出しました。
前者の手続開始決定は、新しい特別法に基づく手続であり、「梶山進又は高木康男が統括する各貸金業グループに属する貸金業者」(検察官が既に把握し ている者として公告されたのは392業者)から借りて返済した被害者だけに効果が及ぶものです。ただし、これに該当すると認められた被害者には、全員の総 額で約29億円の範囲内という限界はありますが、給付金が支給(その限度で被害回復)されます。
他方で、後者の判決については、その直接的効力(給付命令の執行申立ができる者)は、同訴訟事件の原告となった被害者だけのものですが、同判決が示 した民法(民事関係の基本法)に関する一般論(判例)は、今後、五菱会ヤミ金融業者に限らず、高利ヤミ金融業者に広く当てはまるものであり、その被害者一 般に広く及びます。
そこで、以下では、後者の最高裁判決に関連して、ヤミ金融被害者の義務と権利について、私の理解するところを述べたいと思います。
例えば、トイチで10万円借りて約半年間で18万円の利息を払った被害者がヤミ金融業者に対し賠償請求できるのは、18万円全額でしょうか、それとも、受領した10万円を差し引いた残金8万円だけでしょうか。
原審の高松高裁判決は、後者に限定しましたが、前記最高裁判決は、前者の全額の賠償請求を認めました。すなわち、前記のようなヤミ金融業者からの貸 付金については、ヤミ金融業者からの不当利得返還請求が許されないことを確認した(前記3項のとおり)だけでなく、もう一歩進んで、被害者からの不法行為 に基づく損害賠償請求において損益相殺ないし損益相殺的な調整の対象として被害者の損害額から控除することも、民法708条の趣旨に反するものとして許さ れないと判断しました。
この最高裁判決は、ヤミ金融被害者の救済に向けて民法の解釈を確認し前進させたものとして、高く評価することができます。
当会では、当弁護士会館で、来る8月9日(土)に、前記支給手続についての無料法律相談会をするほか、毎週火曜・木曜に、ヤミ金融業者その他の貸金業者やクレジット業者からの多重債務についての無料法律相談をしています。
また、暴力団によるヤミ金融の被害者については、当会民事介入暴力被害者救済センターが対応することもできます。
当会のこれらの活動の中で、前記のような新しい立法や司法判断を活かし、ヤミ金融被害者の救済とヤミ金融の撲滅に向けて、一層の努力をしていきたいと思います。
以上
2008年7月30日
山梨県弁護士会
会長 石川 善一