1 山梨県弁護士会の歴史と役割
山梨県弁護士会は、明治26年にその前身である甲府地方裁判所所属弁護士会として発足し、昭和30年に山梨県弁護士会と名称を改め、その歴史は本年で114年目、山梨県弁護士会となって52年目を迎えます。
この間、弁護士会と私たちの先輩弁護士が常に目指したことは、人権の擁護と社会正義の実現でした。時に、在野の一角として権力と対峙し、また、社会的弱者の救済に助力してきたのも私たちの先輩弁護士が行ってきたことであり、今も連綿として続いていることです。
正しい者が正しく扱われる社会こそ、私たちが目指す社会だと考えます。正しい者が、弱いが故に、あるいは少数者であるために不当に扱われたり、不平等に扱われ、あるいは虐げられてはならない、これが正義であり、人権擁護であると私は考えます。
弁 護士の活動は、時に極悪人の弁護であったり、少数者の擁護であるため、なぜあんな悪い奴を擁護するんだ、とか、世間知らずであるとか、常識を知らない、な どと非難されることもままあります。しかし、これらの者を擁護し、代わりに発言できる者は、弁護士であり、弁護士こそがなすべきことと考えております。弁 護士がこのようなことに発言しなくなったら、社会は暗黒の世界に入っていくと思います。暴力や力の強い者が幅をきかせる社会だけにはしてはならないと考え ます。また、多数意見が常に正しいとも限りません。多数意見が感情に流されて誤った行動をしようとするとき、これを止めるのも弁護士の役割と考えます。
弁護士は、明日の楽しい旅行を皆が考えているときに、事故が起きたらどうしようとか、迷子が出たらどうしようとか、お金が不足したらどうするんだ、と か、暗いこと、悪い事態、問題点ばかり考えているところがあります。しかし、このような人が存在するからこそ、いざと言うときに皆がパニックにならなくて すむし、緊急の事態にも冷静に対応できることになります。弁護士のとかく暗くなりがちな発言は、明るい世の中を作るために必要不可欠と理解していただけれ ば幸いです。
弁護士の仕事は何かを生産することはありませんが、社会が安心して円滑に活動していくために不可欠な仕事です。この弁護士の活動を支えていくのが弁護士会の活動でもあります。
2 無償の会務活動こそが個々の弁護士活動の源泉となる
弁護士会では、1年間に延べ250回前後の委員会が開催されています。ほとんど毎日昼食時間あるいは夕方の時間帯に委員会が開かれ、会員である 弁護士は、複数の委員会の委員を掛け持ち、委員会で決定された個々の会の活動(会務と言います)を行います。人権救済の申立があれば現地の確認や申立人の 面会に行きます。法教育委員会では、未来を担う子供達のために県内の小学校・中学校・高校に出かけて出前授業を行っています。刑事弁護センターは、日々あ るべき刑事事件の弁護活動を研究し、子供の権利委員会は、未成年者の処遇をめぐる問題を取り扱い、民事暴力被害者救済センターは、暴力団に悩まされる人々 の救済活動を行うなど、多くの場面で弁護士が活動しています。私は、いろいろな団体に所属してきましたが、こんなにまじめに議論し行動する団体を他に知り ません。
この活動を私たち弁護士会は、誰の援助も受けず行っています。活動の資金は私たち会員が会費を払って維持しています。
この無償の行動に支えられた会の活動こそが弁護士が社会の信頼を得ている根源の一つだと考えます。弁護士会と弁護士に寄せられた信頼の上に私たちの個々 の弁護士活動も成り立っております。「弁護士さんの言うことだったら聞こうじゃないか」、この言葉を社会から言ってもらうことこそが私たちが守らなければ ならない事柄です。弁護士会はこの社会からの信頼を今後も得ていかなければなりません。個々の会員の皆様は、会務をこなすことは大変でしょうが、どうかそ れは、市民のためになると同時に私たち自身のためになると信じてがんばっていただきたいと思います。
3 司法への信頼を得なければ私たちの発展もない
近年の司法の世界は大改革が行われています。昨年業務を開始した日本司法支援センターへの協力、2009年に開始される裁判員制度の円滑な実 現に向けての活動、国費による被疑者弁護の拡大、法科大学院の設置と大幅な法曹人口の拡大など、弁護士会を取り巻く状況はめまぐるしいものがあり、その対 応に追われていることも事実です。これも弁護士会をあげて取り組んでいかなければならないことです。ことに裁判員制度は、司法に一般の方々が本格的に参加 する初めての制度と言ってもよく、国民主権、司法への国民参加の実現のためにも、法曹界をあげて成功させなければならない制度と考えます。個々の事件で は、時に検察官と戦うことは当然です。それは真実発見のためにどうしても必要なことだからです。しかし、制度としての裁判員裁判は法曹三者が協力して成功 させなければなりません。アメリカの陪審制度も参加したほとんどの人が「参加して良かった」との感想を持っていると聞いております。日本でもきっと参加し た人は参加して良かったと述べると思いますし、また、そのような制度に育てなければなりません。これは裁判所・検察庁・弁護士会だけでなく、司法に関わる すべての人に課せられた大きな責任だと考えます。国民の司法への信頼を失ってしまっては、法治国家は成り立ちません。
これから、この1年山梨県弁護士会の歴史に恥じないよう努力する所存です。是非皆様のお力添えをお願い申し上げます。
2007年6月5日
山梨県弁護士会
会長 小澤 義彦