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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

少年法等の改正に関する会長声明

「少年法等の一部を改正する法律案」(以下、「改正法案」という。)が本年3月1日に閣議決定され、国会に上程された。 本年8月8日、衆議院の解散に伴い廃案になったものの、再び上程されることは必至である。
当会は、改正法案が非行事実に争いがない場合であっても、一定の重大事件においては家庭裁判所が職権で弁護士 である国選付添人を選任できるとしている点は評価するものの、以下の3点については反対であるため、その旨の意思を表明する 。

1.触法少年及びぐ犯少年(※ぐ犯少年とは、将来法を犯す行為をするおそれのある少年をいう)に対する警察の調査権限の付与

触法少年等については、福祉の対象として、児童相談所が優先してその調査を行うとするのが現行法の原則である。
低年齢の少年は未発達であるが故に被暗示性、迎合性などの心理的特質があり、これらの少年に対しては、児童福祉の専門機関であり、子どもの心理を学び、カウンセリング能力を十分に身につけた児童相談所職員により福祉的及び教育的観点から調査されることが必要だからである。

ところが、警察は事件の立件を主な目的としており、少年心理についての専門性を有しない警察官に調査権限等を積極的に認めてしまえば、長時間にわたる、強引なあるいは誘導的な取り調べが行われ、少年法の本質である教育、福祉的対応を後退させてしまうことは明らかである。

次に、ぐ犯事件はそもそも犯罪ではなく、現行法上、警察に捜査権限はなく、ぐ犯少年を発見した警察は、家庭裁判所への送致や児童相談所への通告ができるに過ぎない。
ところが、今回の改正によって警察に調査権限が与えられれば、ぐ犯の定義が広汎であることから、警察が、上記の送致や通告のための調査の名のもとに、少年や保護者の呼出し、学校等への照会などを広く継続的に行う危険がある。

このような事態は、本来、ぐ犯少年について予定されている保護的・福祉的対応を後退させ、警察の子どもに対する監視を強めるものである。

非行に対する児童相談所の調査能力の問題については、必要人員の配置、さらなる専門家の要請、行政による解決をもって解消すべきである。

2.少年院送致可能年齢の下限の撤廃

重大事件を行った少年ほど、被虐待経験のような複雑かつ過酷な生育歴を有している場合が多く、正常な対人関係を形成する能力に乏しい。
このような少年こそ、矯正教育ではなく、福祉的施設である児童自立支援施設で温かい疑似家庭での生活を経験することが必要である。
しかも、14歳未満の低年齢の少年は対人関係を築く能力が未成熟であるから、集団的処遇すなわち対人関係を前提とする矯正教育機関である少年院での処遇は低年齢の少年にふさわしい処遇とはいえない。

ところが、改正法案によれば少年院送致下限年齢が全くなく、法的には低年齢児を少年院に送致することが可能となる。
このような改正は、少年法の本質にそぐわない上、低年齢少年に本来必要な教育を与えることが出来ない結果となり、再非行の防止には全くつながらない。

3.遵守事項違反を理由とする少年院送致

ぐ犯事由にも該当しない遵守事項違反をとらえて新たに非行とし、それを少年院送致等の施設収容処分という不利益処分に結びつけることは、すでに処罰されている従前の非行行為を考慮に入れて判断するものとして二重処罰の禁止に違反するおそれがあり、人権保障の上から重大な問題がある。

そもそも、現行法においても、ぐ犯通告制度(犯罪者予防更生法第42条)を適用することにより少年院送致をすることも十分に可能であり、新たな制度を設ける必要性は何ら存しない。

また、保護観察は長期的な視点で少年を見守り、少年との信頼関係を築きながら、少年の自立的立ち直りを援助し、少年を更生に導いていくことを本質とする制度であり、改正法案はこの本質を誤った方向に変容させ、少年の自主的な努力による立ち直りを阻害するものである。

いかにして遵守事項を守らせるかは、保護観察官の資質と能力を高めることで解決すべきである。

2005年10月8日

山梨県弁護士会
会長 
田中 正志