当会は、2003年(平成15年)10月4日、「司法修習生の給費制維持を求める会長声明」を発した。
しかるに、司法制度改革推進本部法曹養成検討会は、本年6月15日、給費制に代えて平成18年度から貸与制を導入するとの取りまとめを行った。極めて遺憾なものと言わざるを得ない。
戦後、国民主権の下、新しく発足した司法制度の中で、司法修習制度は、法曹養成の一元化を実現するとともに、給費制を採用し、単なる職業人ではなく、国民の権利擁護、法の支配の実現を実践するプロフェッションたる法曹を養成してきた。司法修習を終えた弁護士は、裁判官や検察官と同様、基本的人権の擁護と社会正義の実現の担い手として高い公共性と公益性を国民から期待され、この期待に応えるべく、職務上のみならず公益活動など多くの分野で絶え間ない努力を重ねている。
給費制を廃止することは、国民に最も身近な法曹である弁護士に対する公共性と公益性の期待を放棄することになりかねない。この点は貸与制によって代替することができないものであり、これによって生じる国家的、社会的損失は極めて大きいものがある。
また、貸与制によって司法修習生の修習専念義務が確保できるかも問題である。貸与金は基本的には返還しなければならないから、司法修習生が将来の返還債務の履行を考えたとき、果たして修習期間中安んじて修習に専念できるか疑問だからである。
法曹養成制度が変わり、法科大学院での修学に多大な経済的負担を要するようになった。これに加えて司法修習中の貸与金を返還しなければならないとすれば、経済的な弱者は法曹への道を閉ざされることにもなりかねない。少なくとも、法曹としての出発が多額の債務を負担してのものとなる場合が多くなると考えられ、修習生がその軽減のために弁護士に課せられた社会的公共的使命よりも、より待遇の良い法律事務所を事務所選択の基準としていくことも予想される。そのような事態は司法の利用者たる市民・国民にとって決して歓迎すべきものではない。さりとて、その対策として一定の範囲で貸与金の返還免除措置を導入することは、導入の条件・方法如何では任官者に対する返還免除に繋がり、法曹における官と民の二分化を招来するものであって到底認めることはできない。
国には司法制度改革を実現するために必要な財政上の措置を講じることが義務づけられているのであって、財政的事情から司法修習生の給費制を廃止することは本末転倒である。
よって、山梨県弁護士会は、あらためて給費制の廃止に強く反対するものである。
2004年8月10日
山梨県弁護士会
会長 水上 浩一