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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

死刑執行に強く抗議する会長声明

  1.  当会は、2020(令和2)年3月31日に、国会に対して最高刑のあり方に関する議論を求めるとともに、その結論が出るまでの間、全ての死刑執行の停止を求める会長声明を発出し、2025(令和7)年2月28日には、①速やかに死刑制度を廃止すること、②死刑に代わる刑罰について速やかに議論し、これを導入すること、③死刑制度廃止までの間、死刑の執行を停止することを政府及び国会に対して求める総会決議を採択した。
     そのような中、日本政府は本日、東京拘置所において1名の死刑を執行した。
  2.  当会において、死刑の執行に反対する理由については、上記総会決議において詳細に記載している。2024(令和6)年9月には、袴田事件について再審無罪判決が出され、同年10月に確定したところ、再審無罪になったからといって、死刑判決確定以降40年以上の長きにわたって死刑囚として扱い、多大な精神的・肉体的苦痛を与え続けた責任は、決して軽減されるものではない。
  3.  さらに、複数の国会議員や学識経験者、警察・検察出身者、弁護士、経済界、労働界、被害者団体、報道関係者、宗教家及び文化人など各層の有識者によって構成される「日本の死刑制度について考える懇話会」は、2024(令和6)年11月13日、報告書を公表した(以下「懇話会報告書」という。)。
     懇話会報告書では、死刑制度には「無辜の処刑」という最悪の事態をもたらす危険があること、現在の日本の刑事裁判はそのような誤判のおそれを払しょくするための制度的手段を尽くしているか疑問があることなどに加え、政策決定に当たって、凶悪犯罪の被害者遺族のもつ被害感情・処罰感情と国民一般が抱く共感を基本としながらも、被害者遺族のもつ被害感情・処罰感情が死刑制度の根拠となるかは別の問題としてとらえるべきことなどが指摘され、「現行の日本の死刑制度とその現在の運用の在り方は、放置することの許されない数多くの問題を伴っており、現状のまま存続させてはならない」という基本的な認識が示されている。
  4.  他方、2025(令和7)年2月に公表された「基本的法制度に関する世論調査」(2024(令和6)年10月24日~12月1日調査実施)によれば、「死刑は廃止すべきである」という意見と、「死刑もやむを得ない」という意見のうち、後者に賛成と回答した割合が83.1%にのぼるとされている。しかし、こういった世論調査については、選択肢や質問の仕方が適切ではないとの批判もあり、今回の調査でも、「死刑もやむを得ない」と回答した者のうち、「将来も死刑を廃止しない」と回答し、かつ、仮釈放のない終身刑が導入されたとしても「廃止しない方がよい」と回答した者の割合は、全体の45.6%程度にとどまる。また、懇話会報告書では、この種の世論調査について、「死刑制度の在り方の実態を知り、それを見直すにあたり、重要な事項の多くが明らかにされておらず、憲法上の人権保障の関わり、対外的にも大きな意味をもつ国の制度の在り方について国民が正しい意見を形成する、その前提が欠けている」と指摘されている。当会としても、国民が正しく意見を形成する前提として、これまで死刑制度に関わる様々な情報提供を行ってきたが、さらに積極的に情報提供を進めていく所存である。
  5.  このように、現在の死刑及びこれに関わる刑事裁判制度には、看過ごすことのできない多数の問題が存在するのであり、そのような中で死刑を執行することは、取り返しのつかない過ちをさらに重ねる危険が存在するといわなければならない。
  6.  よって、当会は、本日の死刑執行に対して強く抗議する。

2025年6月27日

山梨県弁護士会
会長 
大西達也