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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

改めて再審法の改正を求める会長声明

  1.  いわゆる「袴田事件」については、2024年(令和6年)10月9日に検察官が上訴権を放棄し無罪判決(本件判決)が確定した。当会は本無罪判決の確定を心から喜び、途方もなく長い年月にわたってえん罪と戦い抜いてこられた袴田巌氏、同氏を支えてこられた袴田ひで子氏並びに支援者、そして再審弁護団の活動に対して改めて深く敬意を表するものである。
  2.  もっとも、上訴権放棄に先立つ同月8日付で最高検察庁が発表した検事総長談話では、控訴をしないことを表明しつつも、「被告人が犯人であることの立証は可能」としたうえで、本件判決中の「5点の衣類」の認定について強い不満を示している。加えて、袴田氏に対しては、「結果として」相当な長期間にわたり、その法的地位が不安定な状況に置かれたことについて「刑事司法の一翼を担う検察としても申し訳なく思っております」と述べるにとどまっている。無罪判決が確定したにもかかわらず、あたかもその人が犯人と主張するような談話を検事総長が発表すること自体、極めて不当な上、その謝罪は表面的で、違法な取調べやそれによって得た自白に偏重した立証、再審請求手続における証拠開示への消極的姿勢、再審開始決定に対する不服申立てなど、袴田氏に苦痛を与え続けた主体としての責任を真摯に受け止めたと評価できるものではなく断じて見過ごすことはできない。
  3.  当会は2023年(令和5年)5月には総会決議を行うなど、日本弁護士連合会などとともに、様々な問題が生じている再審手続に関する規定(再審法)の改正の必要性を訴えてきた。本件判決があった2024年(令和6年)9月には、関東弁護士会連合会及び連合会内の弁護士会と連名で会長声明を発出したほか、日本弁護士連合会内の全単位会が会長声明を発出するなどした。これらの結果、「えん罪被害者のための再審法改正を早期に実現する議員連盟」に加入した国会議員が350名(2024年9月30日時点)にのぼるとともに、山梨県内でも山梨県、甲府市、甲州市、山梨市など複数の議会でその趣旨に賛同した議決がなされるなど、再審法の在り方を問う世論が広がっており、上記検事総長談話に対する世論も厳しいものであった。
  4.  本件判決確定後の10月23日、名古屋高等裁判所金沢支部において、いわゆる「福井女子中学生殺人事件(福井事件)」第二次再審請求事件について再審開始決定があり、同決定はその後確定した。福井事件においても、第一次再審請求事件における再審開始決定に対して検察官が異議申立てをしたことや、検察庁の消極的な証拠開示、これに対する裁判所の訴訟指揮の不十分さなどにより、第一次再審請求から今回の再審開始決定の確定までに20年以上の長期間を費やしており、当会が指摘してきた再審法の様々な問題点が影響している。
     福井事件の第二次再審請求事件では、再審開始に至る裁判官の証拠開示に向けた積極的な訴訟指揮や、検察官が異議申立てをしなかったことなど、それぞれ評価できる点はあるものの、上記3で指摘したような世論の影響も考えられるところであり、このような対応が続く保証はない。そもそも、裁判官や検察官の判断により、刑事裁判制度の運用が大きく変わること自体、国民の人権保障に悖るものであるといえる。
     そして、上記検事総長談話に現れた検察庁の態度からすると、検察庁の自浄作用によって根本的な改善が望めないことが明確になったといえ、改めて、制度的・構造的な問題として、再審法については、早急に立法的な解決が必要であると考える。
  5.  よって、当会は、政府及び国会に対して、再審請求手続における証拠開示の制度化、再審開始決定に対する検察官による不服申立ての禁止、再審請求手続における手続規定の整備などの再審法の改正を、速やかに行うよう改めて強く求めるとともに、同法改正に向けた活動を含む、えん罪の根絶とえん罪からの救済のための活動に注力することを表明する。

2024年11月20日

山梨県弁護士会
会長 
三枝重人