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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

健康保険証を廃止しマイナンバーカードでの被保険者資格の確認に一本化する政府方針に反対する会長声明

  1.  政府は、2023(令和5)年12月22日、現在の健康保険証を2024(令和6)年12月2日に廃止し、原則としてマイナンバーカード(個人番号カード)に保険証機能を持たせた「マイナ保険証」に一本化することを閣議決定した。かかる決定は、行政手続における特定の個人を識別するための番号の利用等に関する法律(以下、「マイナンバー法」という。)等の一部改正を受けてなされたものである。
     しかしながら、現在の健康保険証を廃止し、マイナ保険証に原則一本化することについては、国民のプライバシー保障に問題があること等から、当会は、かかる政府方針の撤回を求めるものである。
  2. 任意取得の原則に反すること
     マイナンバーカードの取得については、マイナンバー法第16条の2及び第17条第1項において申請主義がとられている。これは、マイナンバーカードを取得することによって得られる利便性とプライバシー侵害等に対する危険性とを比較衡量して、各々がマイナンバーカードを取得するか否かを決めることができる趣旨である(任意取得の原則)。
     政府の予定するマイナ保険証への一本化は、現在のわが国における保険制度が国民皆保険であることからして、国民等にマイナンバーカードの取得を事実上強制することに等しいものとなる。
     しかしながら、このようなマイナンバーカードの取得を事実上強制することとなる制度設計は、そもそも任意取得の原則に実質的に反するものであり、また以下のように、プライバシー保障の観点等からも重大な問題がある。
     なお、当分の間の経過措置として、マイナ保険証を取得していない者全員に対しては資格確認書が交付される予定であるものの、経過措置を取りやめることで、政府は容易に資格確認書の発行を例外的な措置と位置付けることができるため、かかる代替手段の存在をもって、マイナ保険証への原則一本化による問題性を排斥することはできない。
  3.  プライバシー保障の観点等から問題があること
    1.  まず、マイナ保険証は、被保険者資格を確認するための健康保険証機能のみならず、2023(令和5)年4月から保険医療機関・薬局に義務化されたオンライン資格確認等システムの整備に伴い、当該被保険者の診療・薬剤情報、特定検診情報等の医療情報と結合させることが当然の前提となっている。
       健康保険証機能をデジタル化するだけであれば、診療・薬剤情報、特定健診情報等とマイナ保険証とを結合させる必要はないはずであるが、現行の制度設計において医療情報の結合に同意しないこととする手続は存在していない。
       当然ながら医療情報は、個人情報の中でも特にセンシティブかつ秘密性の高い情報であって、個人情報保護法においても「要配慮個人情報」と位置付けられ、他の個人情報よりも慎重な取扱いが要求されているところであり(個人情報保護法第2条第3項、同法施行令第2条第2号及び第3号)、個人の意思に反して提供を強制すべき性質のものではない。
       そのため、本来、個別にこれらの情報をマイナ保険証と結合することについて不同意が選択できるようにし、診療・薬剤情報、特定健診情報等との結合自体を拒否する機会が与えられるのが相当である。しかし、かかる機会が与えられない状態でマイナ保険証へ原則一本化することには、プライバシー保障の観点から問題がある。
    2.  また、オンライン資格確認等システムでは、患者は受診時に、マイナ保険証を用いてオンライン資格確認をする際(一般的には医療機関の窓口で受付する際)に、特定健診情報や過去3年分の全ての投薬情報等を一括して医療機関に提供することについて「同意」を求められる。
       しかしながら、憲法が保障するプライバシー権には、個人が自己に関する情報を自らコントロールする権利(いわゆる自己情報コントロール権)が含まれていると考えられているが、医師から情報を提供する必要性等について何ら説明を受けていないうちにする、形式的な「同意」では、実質的に患者の同意を得ていないに等しい状況も容易に想定されるところであり、患者の自己情報コントロール権を侵害する危険性を孕んでいる。
       また、過去3年分の全ての投薬情報の提供について一括して「同意」を求められるということについても、例えば、腕の怪我の治療に際して、その治療とは関連性もない病気で服用した薬についての情報まで提供するよう求められるものであり、たとえ医師等であっても知られたくない病気に関する投薬情報が含まれていたとしても、患者は提供範囲の選択ができないこととなる。そのため、この点に関しても、患者のプライバシー権(自己情報コントロール権)を侵害する危険性を孕んでいる。
    3.  このように、マイナ保険証への一本化は、マイナ保険証にプライバシー保障上の問題やプライバシー権(自己情報コントロール権)を侵害する可能性が存在するにもかかわらず、任意取得の原則に反して、事実上マイナンバーカードの取得を強制することになるものである。
  4.  結語
     以上から、当会は、政府に対し、マイナ保険証への一本化方針を撤回し、現行の健康保険証の発行を存続させることを求める。

2024年11月15日

山梨県弁護士会
会長 
三枝重人