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声明・総会決議
オンライン接見の法制度化を求める会長声明
- 刑事手続における情報通信技術の活用に関しては、2022年3月15日に法務省の「刑事手続における情報通信技術の活用に関する検討会」による「取りまとめ報告書」が公表された。その後、同年6月27日に法制審議会に諮問され、法制審議会刑事法(情報通信技術関係)部会では、刑事手続における情報通信技術の活用のあり方についての検討が進められている。同部会では様々な項目について議論されているが、被疑者及び被告人(以下「被疑者等」という。)との「ビデオリンク方式」(対面していない者との間で、映像と音声の送受信により相手の状態を相互に認識しながら通話することができる方法)による接見(以下「オンライン接見」という。)についても検討がなされている。
- 憲法第34条前段は、弁護人の援助を受ける権利を定め、これを受けて刑事訴訟法第39条第1項は、弁護人が被疑者等と立会人なく面会し、書類の授受をすることができるとする接見交通権を定めている。身体の拘束を受けている被疑者等にとって、弁護人あるいは弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)の援助を受けることは極めて重要な権利であり、刑事施設や留置施設が弁護人等の法律事務所から遠く離れているか否かによって権利の実現が左右されてはならない。
特に、逮捕直後の初回の接見は、身体を拘束された被疑者にとって、今後捜査機関の取調べを受けるに当たっての助言を得るための最初の機会であり、憲法上の保障の出発点を成すものである。すなわち、逮捕段階においては、身体を拘束された被疑者が、要請をした直後に弁護人等から黙秘権告知等の助言を受ける必要があり、これを速やかに行うことが被疑者の防御の準備のために特に重要である。
したがって、地理的条件を問題としないオンライン接見は上記を実現する制度として極めて重要な意義を有する。
また、被告人が起訴後に遠隔地所在の刑事施設に移動することもあり、こうした場合、地理的な要因によって起訴後の接見が困難になることがある。そのため、公判前整理手続や公判手続の遅延を招き、起訴後に十分な接見が受けられない事態が生じる。裁判員裁判や法定合議事件等の重大事件における起訴後の遠距離移送などがその例である。こうした場合も、オンライン接見を用いて、被告人が継続的に弁護人の援助を受けられるようにする必要性は高い。
このように、被疑者等の権利保障、特に遠隔地で身体拘束を受ける被疑者等の権利保障という点から、弁護人等との迅速な接見を可能とするオンライン接見を実現する必要性は極めて高い。
- 山梨県においても、刑事収容施設は県内の広い範囲に点在しており、特に甲府地裁都留支部管内にある都留市や富士吉田市に事務所を有する弁護士が、同地裁本庁管内にある甲府市周辺の刑事収容施設に留置された被疑者等と接見するためには、多大な時間や労力が必要となっている。オンライン接見が実現すればこのような弊害が解消し、十分な接見機会を確保することが可能となる。
また、山梨県において2014年に発生した雪害(豪雪)の際のように、悪天候などにより交通網が遮断され、接見が困難になることもあり得る。このような場合にもオンライン接見が実現すれば早期の接見が可能となる。
- オンライン接見については、新たな設備を整備することによる人的物的対応態勢の問題や、被疑者等の逃亡、罪証隠滅につながり得る行為を防止することの困難性などからその導入に慎重な意見も見られる。
しかし、新たな設備の整備等に伴う人的物的対応態勢の問題については、令状手続のオンライン化をはじめとする刑事手続のIT化全般に妥当することであり、捜査機関の利便性のみではなく、被疑者等が弁護人等の援助を受ける権利を最大限に拡充する観点からも、予算措置の拡充について議論が尽くされなければならない。
また、現行の電話連絡制度や電話による外部交通制度において、例えば第三者が弁護人等になりすますなどして被疑者等の逃亡、罪証隠滅を図ったといった事例は報告されておらず、現代のIT技術の進歩によって、こうした弊害を除去することは十分に可能である。
- 刑事手続のIT化の議論は、何よりも被疑者等の人権保障を拡充するという観点で進められるべきである。当会は、法制審議会においてさらに具体的な議論が尽くされ、オンライン接見が権利性を有する法律上の制度として実現されることを強く要望する。
2023年7月7日
山梨県弁護士会
会長 花輪仁士