特定商取引法(以下「特商法」という。)は、不公正な取引類型を規制し、消費者の利益保護を目的としており、これまで問題のある取引類型を規制するため改正を繰り返してきた。2016年(平成28年)の改正では、附則6条に、政府は施行後5年を経過した場合に特商法の施行状況に検討を加え、必要があると認めるときはその結果に基づいて所要の措置を講ずるものとする旨が定められており、2017年12月1日の施行から2022年12月で5年を経過した。
この間、高齢化社会が進展したことで、認知症などの十分な判断ができない高齢者を対象とした訪問販売や電話勧誘販売による被害の増加が見られ、また、スマートフォンやSNSの急速な普及によって全世代においてインターネット通販によるトラブルも増加している。さらには、20代を中心とした連鎖販売取引(マルチ取引)によるトラブルも増加しており、民法上の成年年齢引き下げに伴い、さらなる被害の増大が予想されるところである。
このような被害状況を踏まえると、現行の特商法の施行状況において被害防止のための措置を講ずる必要性のあることは明らかであり、被害が増加している取引類型を中心とした以下のような特商法の改正を早急に行う必要がある。
まず、訪問販売や電話勧誘販売においては、特商法3条の2第2項や同法17条で、消費者が契約を締結しない意思を表示した場合に事業者の勧誘を禁止しているところ、訪問販売については、「訪問販売お断り」という張り紙等について特商法3条の2第2項の適用があることを明文で規定すべきである。同様に、電話勧誘販売においても、特商法17条の規律をさらに進めて、例えばDo-Not-Call制度(電話勧誘を受けたくない人が電話番号を登録機関に登録し、登録された番号に事業者が電話勧誘することを禁止する制度)のような、消費者が事前に電話勧誘販売を拒絶できる制度を導入すべきである。
次に、通信販売においては、最近では、消費者が利用するSNSなどに販売業者からのメッセージが送信されたことやSNS等の利用中に表示される広告を契機として消費者トラブルに発展するケースが多く見られる。このようなインターネットを利用した勧誘については、不意打ち性などの点で訪問販売や電話勧誘販売とその危険性において何ら変わりがないため、通信販売にも他の取引と同様の行政規制やクーリングオフ制度・不実告知による取消権といった民事上の規制を及ぼすべきである。
そして、連鎖販売取引においては、最近では投資や副業などを対象とした「モノなしマルチ商法」が増加し、その勧誘方法もSNS等を利用して勧誘者の素性も分からない場合も多くなっており、個別の取引ごとに対応するのでは不十分な状況となっている。そこで、連鎖販売取引については、行政庁において事業者が行おうとする連鎖販売取引業の適法性・適正性等を事前に審査する手続を経ることを内容とする開業規制を導入すべきである。また、物品販売等の契約をした後に新規加入者を獲得することによって利益が得られる旨を告げてマルチ取引に誘い込む、いわゆる「後出しマルチ」のトラブルも増加しており、その危険性は通常のマルチ取引と同様であることから連鎖販売取引の拡張類型として明文で規定すべきである。
以上のとおり、当会は、国に対し、早急に特商法を改正するよう求めるものである。
2023年4月7日
山梨県弁護士会
会長 花輪仁士