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声明・総会決議
少年法改正法案に反対する会長声明
- はじめに
政府は、2021年(令和3年)2月19日、「少年法等の一部を改正する法律案」(以下「本法案」という。)を閣議決定し、今国会(第204回通常国会)に提出した。
少年法の改正は、民法の成年年齢引下げに伴い、その適用年齢を18歳未満に引き下げる方向で検討が開始された。当会は、これまでに、2015年(平成27年)7月に、「少年法の適用年齢引下げに反対する会長声明」を発出し、2019年(平成31年)3月にも、「少年法の適用年齢引下げに改めて反対する会長声明」を発出して、繰り返し、少年法の適用年齢の引下げにかかる問題点を指摘し、反対してきた。
少年は未熟で可塑性に富み、自身の特性や環境等の影響を受け非行に至る場合が多いところ、現行少年法では、少年の健全育成と更生を図るという目的のもと、少年事件については全件が家庭裁判所に送致され、家庭裁判所の調査官による調査や少年鑑別所での鑑別によって、少年が非行に至った原因やその背景を科学的に解明するとともに、この調査・鑑別結果を利用して、少年が行った非行の外形だけでなく、少年の特性や環境も踏まえ、教育的な働きかけや環境調整を行うことが可能であり、このような個別的な処遇が再非行防止に繋がっている。したがって、本法案が、罪を犯した満18歳以上20歳未満の者(以下「特定少年」という。)をこれまでどおり少年法の適用対象とし、全件を家庭裁判所に送致して保護事件として取扱う枠組みを維持している点は評価できる。
しかし、特定少年も未熟で可塑性があり、現行少年法に基づく取扱いは特定少年の更生にとっても有効に機能しており、民法の成年年齢引下げにより保護者との関係など少年法上の規定との一定の調整は必要であるものの、その取扱いを大きく変更する必要性はないにもかかわらず、特定少年について満18歳未満の少年と異なる取扱いを多く規定する本法案については反対する。
- いわゆる「原則逆送」対象事件の拡大(本法案62条2項)
本法案は、特定少年に関し、検察官送致(逆送)を原則とする事件として、従前の故意の犯罪行為により被害者を死亡させた罪の事件に加え、「短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪の事件」を対象とし大幅に拡大している。
短期1年以上の懲役・禁錮に当たる罪としては、例えば、強盗罪や放火罪等が挙げられるが、これらの犯罪類型の犯情の軽重の幅は極めて広い上、年長者との共犯の事例も多いなど、再非行防止のためには個別の事案に応じた対処が必要である。それにもかかわらず、これらの罪名にあたる事案を検察官に送致して刑事処分を科すことを原則とし、個別の事情を考慮した上でのきめ細かい家庭裁判所における処分の対象から外すことは、現行少年法の趣旨が失われ、特定少年の更生の機会を奪うものになりかねず、到底許容できない。
- 特定少年をぐ犯の適用対象から除外していること(本法案65条1項)
本法案65条1項は、ぐ犯の適用対象から特定少年を除外している。
少年法において、ぐ犯が処分の対象とされているのは、少年が置かれた環境や性格等から、将来的に犯罪に及ぶ可能性がある場合に保護主義の観点から早期に家庭裁判所が介入し、福祉的支援にも繋げることで立ち直りを図ることに目的があり、少年が反社会的組織に取り込まれることを防止する効果もある。
このような保護主義の観点からの介入は、類型的に未熟で可塑性に富み、環境に強く影響されやすい特定少年についても同様に効果があるだけでなく、児童福祉法の適用年齢を超えるため同法の保護を受けられない特定少年にとっては、福祉的支援のきっかけになるなど特に必要性が高い。
ぐ犯の規定のうち「保護者の正当な監督に服しない」場合(少年法3条1項3号イ)など特定少年が民法上成年となることとの調整が必要な類型は格別、全てのぐ犯の規定の適用対象から除外することは、環境要因等の影響を受けつつある者の救済を困難にするものである。これは、成年においても再犯防止のための取組みが強化されるなど行為者が犯罪を引き起こす要因の除去を目指す情勢があることに逆行するものである。
よって、特定少年について、ぐ犯の適用対象から全て除外する本法案は許容できない。
- 推知報道の禁止の一部解除(本法案68条)
本法案68条は、特定少年のときに犯した罪により公訴提起された場合には、推知報道の禁止が及ばないと規定している。
まず、本法案は推知報道の解除の始期を起訴時としているが、公判の結果、少年法55条に基づき家庭裁判所に移送され保護処分となる可能性があることや、無罪となる場合もあることに鑑みれば、仮に解除するとしてもその始期を起訴時とすることは妥当ではない。
次に、そもそも推知報道が禁止されている趣旨は、少年に関するプライバシーを保護することで、少年の更生に必要な家族や社会の支えを得やすくする点にある。特定少年については、就職する者が多い年代であるところ、それまでの社会生活での信頼や技術などを利用して就職できる場合が少なく新たな就職先を探すことが多いが、氏名・容ぼう等が晒されることにより世間からの批判を受ける可能性があることから雇い入れが躊躇される事態に繋がるなど特定少年の更生が困難になる危険性が大きい。また、特にインターネットが普及した現代においては、いったん推知報道がなされてしまえば、その情報は半永久的に残ることになり、更生の妨げになることは明らかである。
よって、本法案が推知報道の禁止を一部解除していることは許容できない。
- 結論
本法案は、以上のとおり、特定少年に関し、いわゆる「原則逆送」対象事件の範囲を拡大し、「ぐ犯」の適用を除外するとともに推知報道の禁止を一部解除するなどの点で満18歳未満の少年と異なる取扱いを多く規定するなど、少年法1条の健全育成の理念を後退させるものであるから、当会は本法案に強く反対する。
2021年4月10日
山梨県弁護士会
会長 八巻力也