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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

特定商取引法及び特定商品預託法における書面交付義務の電子化に反対する会長声明

  1.  政府は,本年3月5日,特定商取引に関する法律(以下「特定商取引法」という。)及び特定商品の預託等取引契約に関する法律(以下「特定商品預託法」という。)における概要書面及び契約書面(以下「契約書面等」という。)の交付を電磁的方法(電子メールの送付等)により行うこと(以下,単に「電磁的方法による提供」という。)を可能とする法律案(「消費者被害の防止及びその回復の促進を図るための特定商取引に関する法律等の一部を改正する法律案」,以下「本法律案」という。)を国会に提出し,今通常国会での成立を目指すとしている。
  2.  しかしながら,特定商取引法の各取引類型において契約書面等の交付が義務付けられていることの意義は,これら取引が,不意打ち的な勧誘により契約内容を冷静に確認しないまま契約締結に至るおそれが強い類型であることに鑑みて,重要事項を記載した契約書面等の交付を義務付けることで消費者保護を図ることにあるのであるから(警告機能),安易に電磁的方法による提供を認めることはそのような消費者保護の機能を没却することになりかねない。
     また,例えば,現行制度上,契約書面等にはクーリング・オフの権利が存在することを赤枠内に赤字かつ文字サイズ8ポイント以上の活字で記載することとされているため(特定商取引法施行規則5条,6条),消費者が交付された契約書面等を一瞥すれば,クーリング・オフの権利の存在を容易に認識することができる(告知機能)。しかし,電磁的方法による提供が認められた場合に消費者の多くが提供を受けることとなるスマートフォンの画面において,記載事項の一覧性・一体性を保ちつつ8ポイント以上の活字の大きさを確保することは不可能であり,消費者は拡大・スクロールなどの操作をして能動的にクーリング・オフの権利の記載を探し出さなければならなくなるため,消費者保護のための告知機能が著しく減殺される。
     そして,これらのことは,特定商品預託法における書面交付義務に関しても,何ら変わるところではない。すなわち,同法に基づく書面交付義務は,特定商品等の預託等取引が商品の預託に伴い財産上の利益を提供することを約する契約類型であることから,契約書面等の交付を通じて預託利益を生み出す収益事業の実現可能性を消費者に冷静に検討させるという点で重要なものであるところ,安易に電磁的方法による提供を認めることは,特定商取引法における場合と同様,消費者保護の機能を没却させることになりかねない。
  3.  また,本法律案は,消費者の承諾を得た場合に限り,契約書面等の交付に代わる電磁的方法による提供が認められるものとしている。
     しかしながら,そもそも書面交付義務は,契約内容や権利を十分に認識していない消費者を保護するための措置であるところ,かかる消費者においては,契約内容や権利を警告・告知するという書面交付の意義を十分に理解しないまま,安易に承諾してしまうおそれが大きいことはいうまでもない。消費者の承諾のみを要件として電磁的方法による提供を可能とすることは,書面交付義務による警告機能・告知機能によって消費者保護を図ってきた現行制度の趣旨を著しく損なうものである。
  4.  よって,当会は,特定商取引法及び特定商品預託法が規定する契約書面等の交付義務を緩和し,契約書面等の交付に代えて電磁的方法による提供を行うことを可能にする本法律案とそれによる法改正に反対をするものである。

2021年3月13日

山梨県弁護士会
会長 
深澤 勲