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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

新型コロナウイルス感染症(COVID-19)に関する会長声明

 新型インフルエンザ等対策特別措置法に基づき,政府により発令された緊急事態宣言については,本年5月14日,山梨県を含む39県についてこれを解除する旨の決定がなされたところである。
 しかしながら,新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の感染拡大は未だ収束したものではなく,また,同感染症による市民や事業者へのさまざまな影響はむしろ,今後ますます顕在化するものと思われる。
 かような状況を受け,当会は,以下に掲げる諸問題の解決や諸課題の実現に向けて,全力で取り組む所存である。

  1.  不当な差別や偏見への反対
     新型コロナウイルス感染症の感染拡大に伴い,感染された方々や医療従事者,その関係者に対する心ない差別や偏見が深刻化している。とりわけ,当県との関係では,県内で感染が確認された感染者やその家族,知人らへの非難や中傷がインターネット上で広がり,これら関係者の氏名や住所,勤務先等を特定したかのような真偽不明の情報まで出回るケースも見られたところである。
     こうした不当な差別・偏見に基づく誹謗中傷やプライバシー侵害等の行為が重大な人権侵害となりうることはいうまでもないところであるし,これらの行為がもたらすものは結局,相互不信や憎悪でしかない。
    当会は,感染者や医療従事者を含むすべての方々に対するあらゆる差別や偏見,そしてこれらに基づく誹謗中傷やプライバシー侵害等のあらゆる人権侵害行為について,強く反対をするものである。
  2.  市民生活安定化への諸施策の実施
     今般の新型コロナウイルス感染症拡大に伴う社会経済への影響は甚大であり,その規模は世界大恐慌以来のものとなるであろうことを指摘する報道もなされているところ,現に,多くの市民が,事業者・雇用主の経営状況の悪化に伴う失業や休業,給与の減額等により,重大な経済的危機に直面している。当会は,急速な経済不安,社会不安の広がりに対して市民生活を安定化させるため,国に対し,休業補償制度の拡充,家賃の支払補助,学費の猶予ないし免除,住宅ローン等金融機関からの借入れに関する返済猶予等について,立法的解決を含む速やかな諸施策の実施を求める。
     また,長引く学校活動の停止により,子どもたちは,学校という最大の学びの場を失っている。いうまでもなく,教育は,個人が人格を形成し,社会において有意義な生活を送るために不可欠の前提をなすものであり,子どもたちが教育を受ける権利は,憲法上,明確に保障されているものである(憲法26条1項)。当会は,すべての子どもたちが等しく教育を受ける機会を享受できるよう,また,すべての教育関係機関が感染拡大防止を図りながら,オンライン授業等を含む十分な教育活動を行うことができるよう,国及び自治体に対し,必要かつ十分な施策を実施するよう求めるものである。
     加えて,長期化する外出自粛や経済状態の悪化の中,ドメスティック・バイオレンス(DV)や家庭内での子どもに対する虐待の増加も懸念されるところである。国や自治体には,避難先の増設,被害者支援等の実現のための財源の確保,外出自粛要請下でも必要な一時保護の躊躇なき実現と避難先の確保,被害実態の積極的な把握,避難先での感染防止の徹底,避難後の生活支援など,平時にも増した積極的な取組みが求められているというべきである。
  3.  事業者救済のための支援施策の実施
     業種の別を問わず,多くの事業者が緊急事態宣言発令に伴う事業活動の停止あるいは縮小によって,大幅に収入が減少するなどした結果,深刻な経営不安を抱えている。とりわけ,経営基盤の弱い中小事業者や個人事業者にとって,一時的ではあっても事業活動が制限されることは,経営破たんに直結しかねない。
     そのうえで,事業者の休業等による損失への補償は,未だ十分なものとはいえない。国や自治体による休業要請や事業活動の制限は,感染拡大防止という公の目的のために財産上の特別の犠牲を強いることにほかならないのであるから,これに対して十分な補償を行うことは,財産権の補償を定めた憲法29条3項の趣旨から,国及び自治体に対し,当然に要請されることである。
     また,すでに特例法によって差押えが禁止された特別定額給付金と異なり,事業者に対する持続化給付金については,未だその差押えが禁じられていない。経営危機に瀕した事業者が債務を負っていないことはむしろ希なことであり,当該給付金が差押えの対象となるのであれば,事業者にとっては,その営業基盤維持のための貴重な資金をまったく手に入れられないのと等しいこととなる。国は,持続化給付金やその他の助成金等についても,速やかに差押えを禁止する特例法を制定すべきである。
     なお,事業者に対する国の持続化給付金や都道府県による休業協力金は,その対象や金額の点において,必ずしも事業者の損失を完全に補償するものではなく,見舞金としての性質も多分に有するものといえるのであるから,これらを当然に課税の対象とするのは望ましいこととはいえない。特例法によりこれらを非課税とすることを含め,国において,積極的に立法的解決を図るべき課題である。

 当会は,新型コロナウイルス感染症拡大という未曽有の危機に直面している市民や事業者に寄り添い,日本弁護士連合会や関東弁護士会連合会,各地の弁護士会と連携を図りつつ,上記をはじめとするさまざまな問題の解決,課題の実現に関して,今後とも全力で取り組むことをあらためてここに表明する。

2020年5月15日

山梨県弁護士会
会長 
深澤 勲