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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

公益通報者保護法の早期の改正を求めると共に内部通報の外部窓口設置を求める会長声明

1 公益通報者保護法の制定
 公益通報者保護法は、食品偽装やリコール隠しなど、消費者の安全・安心を損なう事業者の不祥事が、組織の内部からの通報を契機として相次いで明らかになったことを受け、通報者を解雇等の不利益から保護することにより、事業者の法令遵守を推進し、国民の安全・安心を確保することを目的として、平成16年に制定され、平成18年4月に施行された法律である。
 このような法律の成立過程からは、もっぱら民間企業の従業者による内部通報を念頭に置いたものと考えられがちであるが、同法2条1項にいう「労働者」に公務員が含まれることは疑いない。したがって、行政機関(自治体を含む)も、その職員の労務提供先の事業者として、職員からの内部通報を受け付ける主体となり、公益通報者を保護しなければならないところである。

2 公益通報者保護法の早期改正の必要性
 公益通報は、事業活動や行政活動を健全化し、安心・安全な社会を構築するものであり、通報者が安心して必要な通報を行える体制を整えることは、事業者・行政機関のみならず、社会のためにも有益かつ必要不可欠である。にもかかわらず、現行公益通報者保護法は、通報者の保護が制度として不十分であることが指摘され続けながら、施行後13年が経過した今日まで改正が先送りされてきた。その結果、公益通報が拡大せず、現在においても不正の抑止や解決に対して十分な効果を発揮できていないことは、大企業による不祥事について、被害拡大後に発覚する事例が複数見られることから明らかである。
 このような中、平成30年12月27日、内閣府消費者委員会から公益通報者保護専門調査会報告書(以下「本報告書」という。)が公表された。本報告書は、内閣総理大臣からの諮問を受け、公益通報者保護法の規律の在り方や行政の果たすべき役割等に係る方策に関する事項についての審議を経て、取りまとめられたものである。
 本報告書は、①通報窓口担当者等の守秘義務、②解雇を含む不利益取扱いに関しての立証責任の転換、③通報を裏付ける資料の収集行為の刑事責任免責、④通報者の範囲に元役員、現在過去を含めた取引先事業者等を含めることなど、幾つかの重要な論点について、今後検討すべき課題とするにとどめている。また、⑤不利益取扱いに対する行政措置としての命令・罰則や刑事罰の導入を否定し、⑥一元的窓口の権限を限定的に解するなど、不十分な側面は否めない。
 しかしながら、本報告書は、①通報者の範囲に退職者及び役員等を含める(現行法は、労働者に限定する)、②通報対象事実に行政罰や行政処分の対象となる行為を追加する(現行法は、犯罪行為等に限定する)、③行政機関への通報における真実相当性の要件を緩和する方向で検討する(現行法は、真実相当性の要件を「通報対象事実が生じ、又はまさに生じようとしていると信ずるに足りる相当の理由がある場合」に限定する)、④行政機関以外の外部への通報の特定事由による保護要件を一部広げる(現行法第3条第3号イ・ロは、内部通報や行政機関への通報により、解雇等の不利益取扱いを受けたり、証拠隠滅等が行われると「信ずるに足りる相当の理由」がある場合に限定する)、⑤一部民間事業者及び行政機関に対し、内部通報体制の整備を義務付ける、⑥行政通報の一元的窓口を消費者庁に設置する、⑦通報を理由とする不利益取扱いに対する行政措置を導入することなど、全体として公益通報を促進する方向性の提言をしており、この点は評価できる。
 そこで、当会は、真に通報者を保護して健全な社会を実現するため、今後の課題とされた論点については引き続き議論を深めるとともに、本報告書で通報者保護の方向性が示された論点については、更なる先送りをすることなく速やかに公益通報者保護法を改正するよう求めるものである。

3 公益通報制度整備の必要性
 上述の通り、本報告書は、これまで義務化されていなかった公益通報制度の整備に関し、一部民間事業者及び行政機関に対し、内部通報体制の整備を義務付けることを提案している。
 しかし、当会において県内自治体の状況を調査したところでは、県と、27市町村のうちの12市町しか、公益通報制度が整備されていない。県内の民間事業者についても、公益通報制度の存在を公表している事業者はわずかである。
 公益通報制度の上述した重要な機能に鑑みれば、制度未整備の民間事業者や行政機関は、法改正を待つまでもなく、速やかに公益通報制度を整備する必要がある。

4 内部通報の外部窓口設置の必要性
 しかも、公益通報制度を実効的に機能させるには、単に制度を整えるだけでは足りず、できるだけ通報者が内部通報をしやすい体制を構築する必要がある。
 消費者庁の報告によれば、内部通報の制度を導入している民間企業のうち、組織内部(社内)にも組織外部(社外)にも通報窓口を設置している企業が59.9%にのぼり、組織外部(社外)のみに通報窓口を設置している企業と併せ、3分の2超の企業が社外に通報窓口を設置しているとのことであり、内部通報の制度を導入している民間企業では、社外に通報窓口を設置することは一般化しているといえる。
 このように、多くの民間企業において社外に通報窓口が設置されているのは、①通報について客観的・中立な対応が期待できる、②通報者の匿名性を確保しやすい、といった利点をふまえたためであると考えられる。また、消費者庁の平成28年12月9日付け「公益通報者保護法を踏まえた内部通報制度の整備・運用に関する民間事業者向けガイドライン」も、「可能な限り事業者の外部に通報窓口を整備することが適当である」としているところである。
 したがって、通報者が内部通報をしやすい体制を構築するには、内部通報窓口を組織の内部に設置するだけでなく、組織の外部にも設置することが重要である。

5 実効性ある公益通報制度の早期整備を求める
 このように、公益通報制度を実効的に機能させるためには、内部通報の通報窓口を組織の外部にも設置することが重要となるが、当会において行った上記県内自治体の調査では、内部通報の通報窓口が外部に設置されているのは、山梨県と、27市町村中1市のみであった。
 そこで、当会は、民間事業者及び行政機関に対し、速やかに公益通報制度を整備すること、また、内部通報の通報窓口を組織の外部にも早急に設置することを求める。そして、当会は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする弁護士が加入する独立した自治団体として、内部通報制度の外部窓口の設置に関し、積極的に助力を行う意思があることを、ここに表明する。

2019年10月17日

山梨県弁護士会
会長 
吉澤宏治