中央最低賃金審議会は、本年7月頃、厚生労働大臣に対し、2019年度地域別最低賃金額改定の目安についての答申を行う予定となっている。
2018年に中央最低賃金審議会は、厚生労働大臣に対し、全国加重平均26円の引上げ(全国加重平均874円)を答申し、これに基づき各地の地方最低賃金審議会において地域別最低賃金額が決定され、山梨県における最低賃金額は、時給784円から26円引き上げられ時給810円となった。
しかし、昨年定められた時給810円という水準は、1日8時間、週40時間のフルタイムで1月あたり22日働いたとしても、月収は14万3000円に満たず、年収換算でも171万円程度としかならない。これは、一般労働者の平均月額賃金30万6200円(厚生労働省2018年賃金構造基本統計調査による)の半分以下の水準であり、この金額では労働者が賃金だけで自らの生活を維持していくことは困難であるといわざるをえず、当該最低賃金額は低額にすぎる。
また、フランス、イギリス、ドイツといった諸外国の最低賃金は日本円に換算するといずれも1100円を超えており、日本の最低賃金は、先進諸外国の最低賃金と比較しても低額であると言える。
我が国の貧困と格差の拡大は深刻な事態となっている。3年毎に行われる厚生労働省による国民生活基礎調査によれば、2015年の相対的貧困率は15.6%であり、3年前の16.1%と比べやや改善したものの、貧困ラインは年収122万円のままで変動がない。女性や若者に限らず、全世代で貧困が深刻化している状況である。働いているにもかかわらず貧困状態にある者の多数は、最低賃金付近での労働を余儀なくされており、最低賃金の低さが貧困状態からの脱出を阻害する大きな要因となっていることは明らかであって、労働者の健康で文化的な生活を確保するために最低賃金の迅速かつ大幅な引上げが必要である。
政府は、2010年6月18日に閣議決定された「新成長戦略」において、最低賃金について、2020年までに「全国加重平均1000円」にするという目標を明記しているが、当該政府目標を達成するためには、最低賃金の迅速かつ大幅な引上げが必要となる。
したがって、中央最低賃金審議会は、本年度、全国全ての地域において、最低賃金の大幅な引上げを答申し、各地の地方最低賃金審議会が決定する地域別最低賃金の大幅な引上げを促すべきである。
山梨地方最低賃金審議会においても、貧困と格差が拡大しているという状況を踏まえ、最低賃金の大幅な引上げを図り、もって、地域経済の健全な発展を促すとともに、労働者の健康で文化的な生活を確保すべきである。
なお、最低賃金の大幅な引上げは、特に中小企業の経営に影響を与えることが予想される。したがって、当会は、政府及び山梨県に対して、最低賃金を大幅に引上げるにあたっては、中小企業を対象とした補助金制度、減税措置、その他経営に配慮した施策を行うことを併せて求める。
2019年7月10日
山梨県弁護士会
会長 吉澤宏治