関東弁護士会連合会及び当連合会管内の13弁護士会の会長は、憲法記念日に寄せて、以下のとおり談話を発表する。
1947年(昭和22年)5月3日に施行された日本国憲法は、今年、69回目の憲法記念日を迎えた。日本国憲法は、わが国が平和的に繁栄し、国際社会から高い信頼を得るのに重要な役割を果たしてきた。しかし、今、日本国憲法は、大きな試練にさらされている。
昨年9月19日、平和安全法制整備法及び国際平和支援法(いわゆる「安全保障関連法」)が成立し、本年3月29日から施行された。安全保障関連法は、歴代内閣が憲法上許されないとしてきた集団的自衛権の行使を容認している。そもそも、安全保障関連法の審議に先立ち、閣議決定により憲法第9条の解釈を変更し、国会においても、十分な審議を尽くすことのないまま、多くの国民が反対する中で、極めて拙速にこの法律を成立させたことは、立憲主義に反するものである。
立憲主義は、人類が多くの過ちを繰り返し、苦難の歴史を経た結果、権力を制限し、国民の権利・自由を擁護することを目的として確立した近代憲法の基本理念である。憲法は、国家権力のあり方を規定するものであり、そのあり方を決めるのは、主権者である私たち国民である。私たちは、歴史を知り、わが国を取り巻く情勢を正確な情報に基づき冷静に分析し、そして、どのような国を目指すのかを深く考えなければならない。憲法に何を託すのか、問われているのは、私たち自身である。本日の憲法記念日を、憲法の意義について改めて認識するとともに、これからの国のあり方を考える機会としたい。
先の大戦により、わが国は、国民が存亡の危機に陥った。国土は焦土と化し、310万人を超える国民が犠牲になった。世界的に見ても甚大な犠牲が伴った。このような戦争の生々しい傷跡が残る中で制定された日本国憲法は、「日本国民は、・・われらとわれらの子孫のために、諸国民との協和による成果と、わが国全土にわたつて自由のもたらす恵沢を確保し、政府の行為によつて再び戦争の惨禍が起ることのないやうにすることを決意し、ここに主権が国民に存することを宣言し、この憲法を確定する。」「日本国民は、恒久の平和を念願し、人間相互の関係を支配する崇高な理想を深く自覚するのであつて、平和を愛する諸国民の公正と信義に信頼して、われらの安全と生存を保持しようと決意した。」と宣言した(憲法前文)。戦後、70余年を経て、戦争を経験した世代は、少なくなり、またわが国を取り巻く国際情勢も変化しているが、私たち国民は、憲法に込められたこの崇高な理想を心に刻む必要がある。
また、憲法が施行された翌々年(1949年(昭和24年))に制定された弁護士法は、「弁護士は、基本的人権を擁護し、社会正義を実現することを使命とする。」と規定し(第1条第1項)、「弁護士は、前項の使命に基き、誠実にその職務を行い、社会秩序の維持及び法律制度の改善に努力しなければならない。」と規定している(同条第2項)。私たち弁護士は、この使命を改めて自覚し、その職責を果たすため、誠実に努力するとともに、戦争が、国民の尊い命を危険にさらし、その生存を脅かすものであり、最大の人権侵害であることを常に意識して、人権擁護活動をしなければならない。
以上の次第であるので、関東弁護士会連合会及び当連合会管内の13弁護士会の会長は、安全保障関連法の運用・適用に反対し、その廃止を強く求めるとともに、弁護士の使命を果たすため、これからも日本国憲法の基本理念を堅持し、戦争のない平和な社会を守るための取組に全力を尽くす所存である。
2016年5月3日
関東弁護士会連合会理事長 江藤 洋一 小林 元治(東京弁護士会会長)
小田 修司(第一東京弁護士会会長)
早稲田祐美子(第二東京弁護士会会長)
三浦 修(神奈川県弁護士会会長)
福地 輝久(埼玉弁護士会会長)
山村 清治(千葉県弁護士会会長)
山形 学(茨城県弁護士会会長)
室井 淳男(栃木県弁護士会会長)
小此木 清(群馬弁護士会会長)
洞江 秀(静岡県弁護士会会長)
松本 成輔(山梨県弁護士会会長)
柳澤 修嗣(長野県弁護士会会長)
菊池 弘之(新潟県弁護士会会長)