2016年4月8日、第190回通常国会において、成年後見制度の利用の促進に関する法律(以下「法」という。)が成立した。
法は、認知症、知的障害その他の精神上の障害があることにより、財産の管理又は日常生活等に支障がある者を社会全体で支え合うために、成年後見制度が重要な手段であるにもかかわらず、これまで十分に利用されていないことの反省に基づき、成年後見制度の利用の促進等を目的として制定された。
そして、法は、上記目的を達成するため、まず国に対し、成年後見制度の利用の促進に関する施策を総合的に策定し、実施する責務を負わせ(法第4条)、他方、地方公共団体に対しては、成年後見制度の利用の促進に関する施策に関し、国と連携しつつ、自主的かつ主体的に、その地域の特性に応じた施策を策定し、実施する責務を負わせている(法第5条)。特に法第11条では、成年後見制度の利用の促進に関する施策として、市町村長による後見開始、保佐開始又は補助開始の審判の請求(以下「市町村長による後見開始等の審判請求」という。)の積極的な活用その他の必要な措置を講ずること(7号)、成年後見人等に対する報酬の支払の助成その他の成年後見人等又はその候補者に対する支援の充実を図るために必要な措置(以下「成年後見制度利用支援事業」という。)を講ずること(8号)等が定められている。
この点、山梨県内における市町村長による後見開始等の審判請求等の現状は、最高裁判所事務総局家庭局作成「成年後見関係事件の概況-平成27年1月~12月-」によれば、全国における後見開始等の審判請求事件の終局事件総数3万4623件のうち、市区町村長による後見開始等の審判請求事件は5993件(17.30%)であるところ、甲府家庭裁判所管轄においては同じく終局事件総数206件のうち、市町村長による後見開始等の審判請求事件は62件(30.09%)と、山形家庭裁判所管轄(31.76%)、釧路家庭裁判所管轄(30.89%)に次いで全国で3番目に多い。これは、まさしく前述の法の目的を先取りした山梨県内の市町村福祉関係部署及び福祉関係団体等の努力の賜であり評価に値するものと思料する。
しかしながら、その一方で、山梨県の調査によれば、山梨県内の27市町村のうち、いまだ6自治体が市町村長による後見開始等の審判請求及び成年後見制度利用支援事業の各要綱を整備しておらず、8自治体が成年後見制度利用支援事業を市町村長による後見開始等の審判請求の場合のみに限定している状況である。また、同じく山梨県内の27市町村のうち、平成24年から平成28年上半期までに、市町村長による後見開始等の審判請求が1回でも行われたのは約半数の13自治体ほどに過ぎない。
このように山梨県内においては、市町村長による後見開始等の審判請求及び成年後見制度利用支援事業の全国的な割合は高いものの、市町村間における整備及び実施状況の格差は依然として大きいと言わなければならない。
およそ家族がおらず又は家族が本人との関わりを拒否するケースなどでは、本来的に市町村長による後見開始等の審判請求がなされなければ、「成年被後見人等が成年被後見人等でない者と等しく、基本的人権を享有する個人としてその尊厳が重んぜられ、その尊厳にふさわしい生活を保障されるべきこと」(法第3条第1項)を全うすることなどできない。それにもかかわらず、いまだ市町村長による後見開始等の審判請求が十分に機能していないということは、かかるケースにおいて、いまだ尊厳を守られていない高齢者や障害者が少なからず存在していることを意味するものであり、かかる事態を解消することこそが急務である。
山梨県内の市町村は、法の目的を最大限尊重し、従前から市町村長による後見開始等の審判請求及び成年後見制度利用支援事業等の措置を積極的に講じてきた市町村はさらに積極的に、かかる措置を講じてこなかったか又は不十分であった市町村は法の目的を達成すべく速やかに体制を整備し、施策を実施することを求める。
当会は、上記のとおり各市町村に求めるとともに、今後も、成年後見人等又はその候補者の育成及び支援等に関する活動を行う成年後見等実施機関(法第2条第3項)として、成年後見制度の利用の促進に関する施策の実施に当たり、家庭裁判所、市町村その他福祉関係団体とも連携して、尽力する所存である。
2016年7月9日
山梨県弁護士会
会長 松本成輔