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声明・総会決議
特定秘密保護法案の参議院での慎重審議及び全面的白紙撤回を求める会長声明
2013年(平成25年)11月26日、特定秘密保護法案(以下「本法案」という。)が衆議院で強行採決され、現在、本法案は参議院で審議されている。
いうまでもなく国会は、国権の最高機関であり、唯一の立法機関であるが(憲法41条)、その正当性の源泉は、主権者である国民によって直接選挙された代表者により、国民の意思が適切に反映される場であることに求められる。したがって、国会議員の選挙において、各選挙区の議員定数の配分に不均衡があり、そのため選挙人の投票価値に不平等が存在することは、憲法第14条第1項の平等原則に違反するばかりか、国会の唯一の立法機関性の正当化根拠に疑念を生じさせる事態となる。
今般、最高裁判所は、昨年12月の衆議院議員総選挙時における選挙区割りは、投票価値の平等に反する状況にあったとの判断を示した(本年11月20日大法廷判決)。今回の判決は、2011年(平成23年)の大法廷判決に引き続き、衆議院議員総選挙について「違憲状態」と判断したものである。この判決により、現在の衆議院は、憲法違反状態の公職選挙法により選出された議員から構成されたものとなり、「正当に選挙された国会における代表者」(憲法前文)とは言い難く、立憲主義の観点からも極めて異常な事態である。
他方、本法案は、国民主権、国民の知る権利、取材・報道の自由、適性評価制度導入に伴う関係者のプライバシー・思想信条の自由、三権分立等を侵害する危険性を有しており、当会をはじめとする各弁護士会、日本弁護士連合会等は、強く反対意見を表明してきたところである。
以上の状況を踏まえたとき、正当性に極めて疑問のある衆議院において憲法上疑義のある本法案を強行採決したことの問題性は根深い。
また、本法案は、上述の憲法上の問題点に加え、国際原則に照らしても、問題が多い。すなわち、「国家安全保障と情報への権利に関する国際原則」(以下「ツワネ原則」という。)は、自由権規約第19条等をふまえ、国家安全保障分野において立法を行う者に対して、国家安全保障のための情報管理と知る権利の保障との調整のために、実務的ガイドラインとして作成されたものであり、国会での本法案の審議においても、同原則に照らして、本法案が自由権規約第19条に適合するといえるか否かが、徹底して審議されなければならない。
ツワネ原則の策定には、アムネスティインターナショナルやアーティクル19のような著名な国際人権団体だけでなく、国際法律家連盟のような法曹団体、安全保障に関する国際団体など22の団体や学術機関が名前を連ねている。この原則には、ヨーロッパ人権裁判所やアメリカ合衆国など、最も真剣な論争が行われている地域における努力が反映されている。起草後、欧州評議会の議員会議において、国家安全保障と情報アクセスに関するレポートにも引用されるなど、国際的にも重要なガイドラインといえる。
しかるに、本法案には、ツワネ原則に反する多数の問題点があり、自由権規約第19条の知る権利を侵害するものというほかないから、廃案にするほかない。
以下、ツワネ原則に則して、本法案の問題点を指摘する。
(1)
ツワネ原則1、4は、国家秘密の存在を前提にしているものの、誰もが公的機関の情報にアクセスする権利を有しており、その権利を制限する正当性を証明するのは政府の責務であるとしている。
しかし、本法案には、この原則が明示されていない。
(2)
ツワネ原則10は、政府の人権法・人道法違反の事実や大量破壊兵器の保有、環境破壊など、政府が秘密にしてはならない情報が列挙されている。国民の知る権利を保障する観点からこのような規定は必要不可欠である。
しかし、本法案には、このような規定がない。
(3)
ツワネ原則16は、情報は、必要な期間にのみ限定して秘密指定されるべきであり、政府が秘密指定を許される最長期間を法律で定めるべきであるとしている。
しかし、本法案には、最長期間について60年という規定があるも、例外にあたる場合には、最長期間の定めはなく、30年経過時のチェックにしても、行政機関である内閣が判断する手続になっており、第三者によるチェックになっていない。
(4)
ツワネ原則17は、市民が秘密解除を請求するための手続が明確に定められるべきであるとしている。これは恣意的な秘密指定を無効にする上で、有意義である。
しかし、本法案には、このような手続規定がない。
(5)
ツワネ原則6、31、32、33は、安全保障部門には独立した監視機関が設けられるべきであり、この機関は、実効的な監視を行うために必要な全ての情報に対してアクセスできるようにすべきであるとしている。
(6)
ツワネ原則43、46は、内部告発者は、明らかにされた情報による公益が、秘密保持による公益を上回る場合には、報復を受けるべきでなく、情報漏えい者に対する訴追は、情報を明らかにしたことの公益と比べ、現実的で確認可能な重大な損害を引き起こす場合に限って許されるとしている。
しかし、本法案では、この点に関する利益衡量規定がなく、公益通報者が漏えい罪によって処罰される危険が極めて高い。
(7)
ツワネ原則47、48は、公務員でない者は、秘密情報の受取、保持若しくは公衆への公開により、又は秘密情報の探索、アクセスに関する共謀その他の罪により訴追されるべきではないとし、また、情報流出の調査において、秘密の情報源やその他の非公開情報を明らかすることを強制されるべきではないとしている。
しかし、本法案には、このような規定がないどころか、第23条ないし第27条の規定によって広く処罰できるようにしている。
自由民主党の石破茂幹事長は、11月29日の自身のブログに、「今も議員会館の外では「特定機(ママ)密保護法絶対阻止!」を叫ぶ大音量が鳴り響いています」、「主義主張を実現したければ、民主主義に従って理解者を一人でも増やし、支持の輪を広げるべきなのであって、単なる絶叫戦術はテロ行為とその本質においてあまり変わらないように思われます。」との意見を掲載している。
しかし、このように政治的主張を訴える市民の行動は憲法21条の表現の自由により保護される典型的場面である。それをもって「テロ行為とその本質においてあまり変わらない」と評価するのは、表現の自由に対する無理解に基づくものと言わなくてはならない。
本法案においては、別表4号において、「テロリズムの防止に関する事項」が掲げられている。本法案の第12条2項における「テロリズム」の定義によれば、「政治上その他の主義主張に基づき、国家若しくは他人にこれを強要」することとある。本法案を推進する自由民主党の幹事長であり、元防衛大臣である石破茂氏が特定秘密保護法阻止の宣伝行動をもテロと同視したことは、本法案成立後において、市民が政府を批判する活動が広く「テロリズム」に含まれ得る危険性を示している。
さらに、本法案は、違法な「特定秘密」を保護の対象から除外していない。この点、平成25年11月19日に開催された衆院国家安全保障に関する特別委員会では、森雅子担当大臣が、違法行為の秘密指定はない、違法行為の秘密指定は無効である旨述べている。しかし、条文上、違法行為を秘密指定から除外する旨の規定は存在せず、時の内閣の考えによって解釈は変わりうる。さらに違法か否かの限界もあいまいな部分もあり、違法行為であっても、一旦秘密指定されてしまえば検証のしようがない。したがって、仮に、多数の国民に対して盗聴行為が行われても、これらの盗聴行為が行政機関の長により「テロリズムによる被害の防止」のための措置に該当するとして、特定秘密として指定できうることになる。すなわち、盗聴行為を特定秘密として指定することにより、国民に秘密にされたまま、同様な監視活動が行われることになる。
この点、法制審議会新時代の刑事司法制度特別分科会では、本年1月29日には、「時代に即した新たな刑事司法制度の基本構想」を取りまとめ、上記基本構想及び同分科会での最近の検討状況によれば、通信傍受の対象犯罪を、通常の殺人、逮捕・監禁等、窃盗・強盗等、さらには「その他、重大な犯罪であって、通信傍受が捜査手法として必要かつ有用であると認められるもの」にまで広げることが検討されている。このような通信傍受法が成立すれば、裁判官による令状審査が行われるにしても、特定秘密保護法違反を「重大な犯罪」とし、テロリズムの防止と称して、通信傍受を行うことが横行する可能性もなしとしない。
衆議院強行採決の前日である11月25日に福島県で開かれた公聴会では、与党推薦者を含め、出席者全員が本法案の内容に反対ないし懸念を示した。しかし、翌日の衆議院では十分な審議が行われず、公聴会での意見が一顧だにされないまま、採決が強行されたのであり、この公聴会もアリバイ作りに過ぎなかったことが白日の下に晒されたのである。原発の被害に現在でも苛まれている福島の窮状をまったく理解しようとしないこの採決は、極めて遺憾であり、法案のもたらしかねない重大な影響に鑑みると、到底是認できない。
本法案は、そもそも憲法の諸原理にことごとく抵触する法案であるにもかかわらず、本年9月3日に概要のみしか公表されない段階で、9月17日までという極めて短期間を設定して、国民に意見照会を求めた。そして、現在までに福島県1箇所で公聴会を行ったのみで、また4党修正案の審議は2時間しか行わないという状況下で強行採決が行われた。まさしく拙速の極みといわなければならない。
こうした本法案の国会審議の状況について、報道によれば、米国の核戦略の専門家で国防総省や国家安全保障会議(NSC)の高官を務めたモートン・ハルペリン氏(75)も、「スピードを懸念する。南アフリカで同種の動きがあるが、既に数年かけている。南ア政府は最初2カ月で法案を通そうとしたが、反対運動が起き、3、4度修正された。ツワネ原則に完全合致はしないが、時間をかけ大いに改善された」としているところである。
参議院の存在意義は、衆議院の軽率な行為・過誤の回避、民意の忠実な反映という点に求められる。
当会は、本法案の拙速な採決に強く抗議し、良識の府である参議院において十分な審議を尽くすよう要請するとともに、本法案の全面的白紙撤回を求めるものである。
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