ページの先頭です
声明・総会決議
特定秘密保護法案に反対する会長声明
- はじめに
2013年10月25日、政府は、特定秘密保護法案(以下、法案という)を閣議決定し、国会に提出した。
これまで、当会は、2012年5月22日秘密保全法制に反対する総会決議、2013年9月9日特定秘密の保護に関する法律案に反対する意見書をそれぞれ発出してきた。秘密保全法制や法案に反対する意見書は日弁連や各地の弁護士会からも同様に発出され、マスコミも法案の問題点について連日報道をしている。
また、政府が法案の提出に先立って実施したパブリックコメントにおいては、わずか2週間の間に9万件を超える意見が寄せられ、そのうちの実に4分の3以上となる約77%が法案に反対している結果となった。さらに共同通信社が閣議決定後の2013年10月26、27両日に実施した全国電話世論調査によると法案には過半数が反対し、法案の慎重な審議を求めている意見が8割を超えたとの報道がなされた。このように全国的に法案の成立を危惧する意見が続出する中でなされた法案の閣議決定及び国会提出は、国民的議論がほぼなされない中での拙速の極みであり、暴挙と言わざるを得ない。
- 法案の問題点
これまで当会が発出した意見書で述べた問題点に加え、このたび閣議決定された法案に対して、いくつかの問題点を指摘する。
- (1)
- 第1に、秘密指定に関して、「特定秘密の指定及びその解除並びに適性評価の実施に関し、統一的な運用を図るための基準を定めるものと」し(18条1項)その「基準を定め、又はこれを変更しようとするときは、(中略)優れた識見を有する者の意見を聴かなければならない。」(同条2項)とされた。
この点、「優れた識見を有する者」の意見を聴くとされるが、有識者が関与するのは運用基準の策定に限定され、秘密指定には関与できない。さらに、基準の策定についてさえも有識者の意見に拘束されるわけではない。秘密指定に客観的な第三者のチェックは行わせず、さらに指定の運用基準は公開しないという前提であれば、基準の客観性を担保できない。
内閣官房内での実施状況のチェックがなされるとしても、身内をかばうことの危険を否定できず、時の政府による恣意的な秘密指定がなされうることに変わりはない。
- (2)
- 第2に、秘密指定の有効期間の延長に関して、「指定の有効期間が通じて30年を超えることとなるときは、(中略)内閣の承認を得なければならない。」(4条3項)とされた。
しかし、指定期間が30年を超える場合には内閣の承認を必要とするとしても、指定権者である行政機関の長の判断を追認する形で内閣の承認がなされることが予想され、指定が恒久化してしまう危険性が高い。指定が恒久化した場合、それが真に秘密に値するものであったのか、単に政府の都合による恣意的な指定であったのかを国民は知りえないことになる。なお、秘密が残されていれば後日の検証が可能となるが、秘密が恣意的に廃棄された場合には、検証の機会がない点でも問題が残る。
- (3)
- 第3に、知る権利等に関して、「国民の知る権利の保障に資する報道又は取材の自由に十分に配慮しなければならない。」(21条1項)とされ、「出版又は報道の業務に従事する者の取材行為については、専ら公益を図る目的を有し、かつ、法令違反又は著しく不当な方法によるものと認められない限りは、これを正当な業務による行為とするものとする。」(21条2項)こととされた。
しかし、21条1項の報道又は取材の自由に十分配慮するとの規定も、抽象的な訓示規定に過ぎず、これにより報道又は取材の自由が担保される保障は何もない。「専ら公益を図る目的」「著しく不当な方法」という要件の有無は、まず捜査側が判断することであり、起訴され、結果的に裁判所で無罪になったとしても、それ以前の取調べや捜索の対象となりうることだけでも、取材に対する萎縮効果は計り知れない。さらに、「出版又は報道の業務に従事」しない者である一般市民や市民運動家等には適用されず、不合理な差別となっている。さらに、正当業務とされるのは取材のみであり、報道は対象とされていない。取材行為が処罰されなくても報道が処罰対象となれば、報道に十分に配慮するというのが抽象的訓示規定にすぎないこともあわせ、報道の自由に対する萎縮効果が生ずる。
- (4)
- 第4に、法案では、国会議員への特定秘密の提供について、行政機関の長は、憲法に規定する秘密会、国会法に規定する両院の委員会秘密会、参議院の調査会秘密会であっても、直ちに特定秘密の提供に応じないとして4つの条件を付けている。すなわち、①当該特定秘密を利用し、又は知る者の範囲を制限すること、②当該業務以外に当該特定秘密が利用されないようにすること、③その他当該特定秘密を知る者がこれを保護するために必要なものとして政令で定める措置を講じ、かつ、④我が国の安全保障に著しい支障を及ぼすおそれがないと認めた場合に限り、特定秘密を提供することができるとしている(10条1項1号)。国会議員への秘密提供は、警察庁長官が都道府県警察に提供する場合(7条)や、行政が外国政府等に提供する場合(9条)よりも明らかに要件が厳しく、さらに行政機関の長の判断ひとつで当該特定秘密を国会に提供しないことがあるというもので、国会が行政をコントロールする議院内閣制の仕組みや国会の最高機関性(憲法第41条)が否定されることになりかねず、国会による行政の監督機能が骨抜きになることを意味する。また、違反には当然罰則が科されることになり、秘密の提供を受けた議員は、所属政党に持ち帰ってこれを検討したり、政策秘書や研究者にこれを知らせて相談することすらできなくなる。これも国会の役割の著しい軽視といえる。
- (5) 人的管理に特化する法案の問題点
- 法案の立法の動機は、「高度情報通信ネットワーク社会の発展に伴いその漏えいの危険性が懸念される」こととされているのであり(1条)、情報管理システムの適正化こそが法案の中心になるべきである。しかるに、法案では情報管理システムに関する基本構造や管理ルールなどの規定が全く存在せず、取り扱う者の監視や処罰の強化ばかりを強調する規定内容になっている。
これまでの漏えいの多くは、本来情報を持つ必要のない職員が情報を漏えいしたというものである(ボガチョンコフ事件、尖閣沖映像漏えい事件)。常日頃から、情報は必要な範囲の職員にだけ配布する、関係ない職員からはアクセスすることができないようにするなどの情報管理対策を徹底すれば情報漏えいのリスクを最小限とすることができる。このような適正な情報管理(物的管理)をすれば、現行法の規律の限りで足り、取扱者に対する深刻なプライバシー侵害を伴う適性評価制度や、漏えい等に対する広範かつ重い刑罰によって対処すべきではない。
- よって、当会は、特定秘密保護法が制定されることに強く反対する。
過去の会長声明はこちら
2013年11月9日
山梨県弁護士会
会長 東條 正人