刑事裁判手続は、判決により刑罰を科し、人の生命・身体の自由などの人権を制限する手続であり、「一人の無辜も罰するなかれ」が刑事裁判の大原則である。そのため、憲法34条の弁護人依頼権は、「単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障している」(最大判平11・3・24)と解されている。我が国の刑事裁判は大半が国選弁護人によって担われており、被疑者・被告人となった市民が、費用の心配なく弁護人の支援を享受できる国選弁護制度の整備は、適正・迅速な刑事裁判手続の維持とともに、えん罪という国家権力による人権侵害を防ぐため必要不可欠である。
この点、法務省に設置された「改正刑訴法に関する刑事手続の在り方協議会」(以下、「在り方協議会」という)が2025(令和7)年7月に取りまとめた報告書において、特に国選弁護に関していえば、近年では、9割近い被疑者が捜査段階において国選弁護人を選任し、ほぼ全ての事件において24時間以内に国選弁護人が指名されていること等が確認され、国選弁護制度自体は堅調に運用されている。
一方で、国選弁護人の報酬は、法テラスが発足しその算定基準が明確になった2006(平成18)年当時から低額であり、国家権力から独立して活動する弁護士が事務所を維持しながら業務として行うには到底足りないものである。日弁連では、その改善の必要性を繰返し指摘するなどしてきたが、ほとんど改善されていない。
加えて、近時では、袴田事件、福井女子中学生殺人事件と、相次いで再審無罪判決が出されているところ、えん罪事件は過去のものではなく、プレサンス事件、大川原化工機事件など、現在も生み出されており、刑事弁護活動の重要性が改めて認識されている。当会では、国際的に「人質司法」と批判されえん罪の温床となっている長期の勾留・取調べ・自白偏重の状況を改善するべく、弁護士の会費を原資として当番弁護士制度をはじめ、鑑定費用の援助などの制度を実施してきた。取調べの録音録画への対応や取調べへの立会いのほか、再犯防止の観点からの入口支援・出口支援における福祉関係者等との連携など、刑事弁護人に求められる活動は時代の進行とともに高度化・複雑化し、刑事弁護人にはきめ細やかな活動とより高いスキルが要求されている。多くの弁護士は、国選弁護制度が憲法上必須の制度であるとの認識の下、人権擁護活動の一つとして、研鑽に努めながら、日々被疑者・被告人の権利擁護のために活動している。
しかしながら、国選弁護業務の報酬は、求められている専門性が反映されることなく低廉であり、算定されない業務時間や労力が多く、当事者鑑定等必要な費用が国費から支出されず必要な弁護活動を行うことが困難な状況が継続している。さらに、刑事弁護以外の弁護士業務も高度化・専門化し、人権擁護活動も多様化していることもあり、弁護士の使命感のみでは国選弁護業務を継続することができず、業務分野として他の分野を選択するという弁護士が増加傾向にある。
国選弁護人の担い手を確保し、被疑者・被告人の権利擁護を継続するためには、業務として国選弁護業務を選択できる程度までの基礎報酬の大幅増額と、在り方協議会で取り上げられた多岐にわたる新たな弁護活動の費用を含めた弁護費用の抜本的改善が必要不可欠な状況となっている。
そもそも、国選弁護業務のための予算は160億円前後と極めて僅少な額で推移している。膨張を続ける120兆円規模の国家予算に占める割合も年々低下しており、人権保障の経済的基盤の拡充は立ち遅れているという他ない。
よって、当会は、被疑者・被告人の更なる権利擁護と公正な刑事司法制度実現のため、国会、法務省、財務省等に対し、国選弁護制度の基礎報酬の大幅増額及び各種弁護費用の抜本的改善を強く求める。
2026年3月17日
山梨県弁護士会
会長 大西達也