ページの先頭です

山梨県弁護士会について

声明・総会決議

出入国管理及び難民認定法改正案に反対する会長声明

 政府は、本年3月7日、「出入国管理及び難民認定法及び日本国との平和条約に基づき日本の国籍を離脱した者等の出入国管理に関する特例法の一部を改正する法律案」(以下「本改正案」という。)を閣議決定し、国会に提出した。

 2021年通常国会に提出された出入国管理及び難民認定法改正案(以下「2021年法案」という。)は、国際水準に適った人権保障に欠けていたところ、同年3月6日に名古屋出入国在留管理局で発生したスリランカ人ウィシュマ・サンマダリさんの死亡事件を契機に批判が強まり、同年秋の衆議院解散で廃案となった。

 本改正案について、政府は、保護すべき者を確実に保護し、2021年法案から大きく修正したものとする。しかしながら、以下に述べるとおり、ルール違反には厳正に対処する制度に主眼が置かれ、仮放免中のものを含む現に日本に滞在する多くの外国人や日本に難民認定を求める外国人の人権に配慮したものとは評価できない。

 本改正案の内容は、第一に「原則収容」を改め、個別事案ごとに、逃亡等のおそれの程度及び本人が受ける不利益の程度を考慮し、主任審査官が収容の要否を見極めて収容か管理措置かを判断するとする。さらに3か月ごとに収容の要否の必要性が判断される。

 しかし、収容期間の上限はなく、判断主体は所轄庁である。重要な基本的人権である人身の自由の制限について司法審査はなく、2022年10月の国連自由権規約委員会による勧告内容は実現されていない。

 第二に難民認定手続中の送還停止効に例外を設け、3回目以降の難民認定申請者は退去させることを可能とする。ただし、難民や難民に準じて保護する外国人(補完的保護対象者)と認定すべき「相当の理由がある資料」の提出があれば、送還は停止される。

 しかし、そもそも日本のこれまでの難民認定率の低さの根源は国際基準からはずれた認定要件にあった。難民認定制度の運用や「相当の理由がある資料」の判断に対して、第三者機関等による関与制度がない以上、難民の地位に関する条約で規定する難民を送還しない原則(ノン・ルフールマン原則)違反になりえ、難民を命の危険にさらす恐れが拭えない。

 このほか、支援者や弁護士らに対してその立場と相容れない役割を強いる管理措置制度の新設や、必要性と相当性を欠く退去命令と罰則を新設するなど、本改正案には2021年法案の問題点がそのままあてはまるものである。

 日本人と外国人が互いに尊重し、安全・安心に暮らせる共生社会の実現にとって、全ての人々の個人の尊厳が確保されることが重要であり、外国人だからといって、適正手続保障をはじめ基本的人権の保障が及ばないことはあってはならない。日本国内に生活基盤を有し、母国に帰還することもできない、仮放免のまま複数回の難民認定申請中の外国人(未成年者など)がいることを忘れてはならない。

 当会は、本改正案について、前記の問題点が抜本的に修正されない限り反対である。そして、ノン・ルフールマン原則に則った適正な難民認定と司法審査が導入された収容認定や収容期間の上限設定など、国際水準に適った人権保障が実現されることを国会に求めるものである。

2023年4月7日

山梨県弁護士会
会長 
花輪 仁士