新型コロナウイルスの感染拡大に伴う社会・経済の混乱は緊急事態宣言解除後も継続しており,失業や収入減によって,生活困窮に陥る人々が増加している。とりわけ,非正規労働者,小規模事業者,学生,技能実習生を含む外国人など,もともと生活に余裕のない人たちがその影響を最も大きく受けており,より深刻な事態に直面している。感染拡大の収束が見えない中,今後も生活困窮者は増加していくことが予想され,また,感染の第2波到来によるさらなる混乱も懸念されるところである。
このような生活困窮者に対し,憲法第25条の生存権に基づき,その生活を保障するのが生活保護制度である。また,家賃滞納によって転居や住居喪失を余儀なくされかねない生活困窮者の家賃負担を援助する制度として,生活困窮者自立支援法第6条に基づく住居確保給付金制度がある。
しかしながら,現在の生活保護制度には,厚生労働省の通知(保護の実施要領)によって,厳しい資産要件や扶養義務者に対する調査など,利用にあたっての高い障壁が設けられている。また,生活保護制度に対する誤解や偏見の広がりによって,申請自体を躊躇する例も少なからず存在する。
住居確保給付金制度についても,厚生労働省令によって極めて厳格な要件が定められているため,その利用は低迷してきた。
このような現状を踏まえ,日本弁護士連合会は,2020年(令和2年)5月7日付会長声明において,新型コロナウイルスの感染拡大を踏まえ,厚生労働省に対し,生活保護制度及び住居確保給付金制度について,その要件・運用の緩和による積極的活用を求めている。
他方,厚生労働省も,生活保護制度について,申請時においては,生活保護の要否判定に直接必要な情報のみを聴取し,速やかな保護決定を行うこと,通勤用自動車や自営に必要な店舗,機械器具等の資産の保有を認めるなど,従来の運用を緩和すべきことを各自治体に対し各「事務連絡」により通知している。
また,厚生労働省は,住居確保給付金制度についても省令を改正し,「65歳未満」との要件を撤廃したほか,離職後2年以内の者だけでなく収入が減少した者も支給対象とする,「公共職業安定所に求職の申込みをし,誠実かつ熱心に期間の定めのない労働契約又は期間の定めが六月以上の労働契約による就職を目指した求職活動を行うこと」という要件についてもこれを「誠実かつ熱心に求職活動を行うこと」とするなど,支給要件の緩和を行ってきた。
これら厚生労働省による要件緩和や運用改善は評価されるべきものであるが,各自治体レベルでは,その実施が十分でないとの指摘もある。そこで,すべての市民の生存権を保障するため,当会は,県内の各自治体に対し,両制度のさらなる積極的活用が図られるよう,厚生労働省の通知や省令改正を踏まえたうえで,以下の諸点の実施を求めるものである。
2020年8月7日
山梨県弁護士会
会長 深澤 勲