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声明・総会決議
裁判所速記官の養成再開と増員を求める会長声明
裁判所速記官制度は、民事事件、刑事事件を問わず、証言・供述調書の正確性や公正性を担保するとともに、迅速な裁判に資するものであり、裁判に必要不可欠な制度である。裁判所法60条の2第1項は、「各裁判所に裁判所速記官を置く」と規定し、各裁判所に裁判所速記官を配置することを法律上義務付けている。
ところが、最高裁判所は、1997(平成9)年の最高裁判所裁判官会議において裁判所速記官の養成を停止することを決定し、1998(平成10)年度から、新たな裁判所速記官の養成を停止した。そのため、1997(平成9)年時点で全国の裁判所に配置されていた800名を超える裁判所速記官は、2019(平成31)年4月1日時点で178名にまで減少した。この間、甲府地方裁判所管内に配置される裁判所速記官は4名から3名に減少したにとどまるが、新たな人材の養成と配置が行われない限り、将来的に裁判所速記官が1名も配置されない状況に至ることは明白である。
最高裁判所は、裁判所速記官による速記録に代わるものとして、民間委託による録音反訳方式を導入している。
しかし、録音反訳方式は、万一書記官による録音機器の操作の誤りや機器の不具合によって録音ができていないことが事後的に判明した場合、再現は不可能で取り返しのつかないことになる。事実、このような事例の存在が当会で報告されているところである。
また、調書の完成までに相当の日数を要するため、迅速な裁判の実現に資するものとはなっていないのに加え、民間業者は法廷での尋問等に立ち会っておらず、録音データから正確な聴き取りができない可能性があること、法律用語に精通しているとは限らないことなどの理由から、誤字や脱字、聞き間違え等の問題が生じがちである。
さらに、情報管理という観点から見ても、反訳を民間業者に委託することについては、情報漏えいの懸念がぬぐいきれず、プライバシー保護が十分に図られないおそれが否定できない。
これに対し、裁判所速記官による速記は、法廷でリアルタイムに記録されるものであるため、速記録が作成できないという事態は想定できない。
また、電子化した速記機械と反訳ソフトウェアの開発により、法廷での質問と応答を直ちに文字化し、即日に速記録を作ることが技術的に可能となっている。しかも、裁判所速記官は、法律用語等に精通しているうえ、法廷での尋問等に立ち会っていることから、発語が聞き取りにくい場合には、その場で確認を行うことができるなど、誤字・脱字、聞き間違えや言葉の取り違えなどの危険も少ない。
さらにいえば、速記録には、証人等の発言のみならず、たとえば無言でうなずく等供述者の法廷での動作も記録されている。
証言・供述調書の作成にあたり、録音反訳方式より裁判所速記官による速記録の方が、いずれの点でも優れていることは明らかである。
とりわけ、重罪事件を扱う裁判員裁判事件では、連日開廷が想定されるところ、録音反訳の完成を待って審理や評議を行うような訴訟進行は不可能であるから、速やかに速記録を作成する必要性は特に高い。
この点、現在では、調書の作成とは別に、証人尋問等の音声及び映像と文字データを記録するいわゆる音声認識システムを利用する運用がされている。しかし、この現行の音声認識システムによる音声認識の精度は低く、文字化が極めて不正確であるため、誤変換が多い、解読ができないなどといった問題が生じている。しかも、裁判員が評議等の時間で音声や映像を見直す時間的余裕はないのが実情である。
裁判員裁判事件において、審理の正確性を期し、充実した評議を実現するためには、法廷での証言・供述内容が即時に確認できることが必要不可欠であり、裁判所速記官による正確性の担保された速記録を速やかに作成する必要性は、特に高いというべきである。
公正で客観的な証言・供述調書の存在は、国民の公正・迅速な裁判を受ける権利を保障するため不可欠な前提である。裁判の適正や裁判所の訴訟記録作成に対する国民の信頼を確保するためには、厳しい研修を受け、裁判の実情に精通した裁判所速記官による速記録の作成が不可欠である。録音反訳方式や音声認識システムによる文字化では不十分である。
現在、国際的には、法廷での質問や応答を記録する方法として、リアルタイム速記が主流となりつつある。アメリカにおいては、近年、速記者が大幅に増員されているし、中国や韓国でも制度化されているほか、オランダの国際刑事裁判所においても、リアルタイム速記が活用されている。
最高裁判所がこのまま裁判所速記官の養成を停止し続けることは、国際的な潮流にも反するものである。
よって、当会は、最高裁判所に対し、速やかに裁判所速記官の養成を再開して裁判所速記官を増員することを求めるとともに、国に対し、これに必要な予算措置を講じることを併せて求めるものである。
2020年3月17日
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会長
吉澤宏治
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