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山梨県弁護士会について

声明・総会決議

さらなる生活保護基準の引下げに強く反対する会長声明

 厚生労働省は、2017(平成29)年12月14日、社会保障審議会生活保護基準部会がとりまとめた「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」を公表した。

 その後、政府は、生活保護受給額のうち食費や光熱費など生活費相当分について、支給水準を2018(平成30)年10月から3年かけて段階的に引き下げて、政府の支出額を年160億円(約1.8%)削減する方針を決めた。政府方針によれば、子育て世帯への児童養育加算は40億円の増額としたものの、生活費本体については180億円、母子加算については20億円の削減となる。

 上記の支給水準引下げの根拠として、生活扶助基準額と年収下位10%の層を比較して、生活扶助基準額のほうが高いことが挙げられている。

 しかし、そもそも生活保護制度の捕捉率(制度を利用できる資格がある人の中で生活保護制度を利用している人の割合)は15.3%から32.1%にすぎず(2010(平成22)年4月9日付厚生労働省発表の「生活保護基準未満の低所得世帯数の推計について」)、年収下位10%の層の多くは、生活保護制度を利用できておらず、生活保護基準以下の生活を強いられているものと考えられる。したがって、上記引下げの根拠は、単に捕捉率の低さを浮き彫りにしたものに過ぎない。

 むしろ、このような年収下位層と生活保護基準の比較によって、支給金額を検討する方法では、捕捉率の低下、つまり生活保護を受けていない低所得者層が増えるほどに、生活保護を受けている層の支給水準も引き下げられ、貧困問題がより深刻化していくことにもなりかねず、いわば負のスパイラルを招きかねない。

 上記「社会保障審議会生活保護基準部会報告書」においても、「絶対的な水準を割ってしまう懸念がある」など、前記手法の問題点が多数指摘されている。

 「健康で文化的な最低限度の生活」を保障する憲法や、子どもの健やかな成長発達を保障する子どもの権利条約に照らせば、どのような生活保護制度であるべきかの検討は、単に特定の算定方式による比較を機械的にあてはめるべきではなく、生活保護利用者を含む低所得者層の生活の実態を十分把握したうえで行うべきである。

 にもかかわらず、2013(平成25)年以降の生活保護基準引下げについて、このような観点から適切な検討がなされたとは言い難い。

 しかも現在の政府は、量的金融緩和によるインフレ誘導政策を基本としているのであるから、当該方針は必然的に物価上昇による必要生活費の上昇を内包するものである。生活保護水準は、健康で文化的な最低限度の生活を保障する趣旨で定められているのであるから、インフレを誘導するのであれば、生活保護水準もそれに合わせて上昇させなければ最低限度の生活の維持も困難となることは明らかである。こうした点を十分に考慮しないまま、生活保護基準を引き下げることはあってはならない。

 2013(平成25)年以降の生活保護基準引下げについての十分な検討を欠き、しかも金融政策といった他の政策との整合性もないままに、本来生活保護制度によって保護されるべき低所得者層との比較を根拠として、再び生活保護基準を引き下げることは到底容認できない。

 当会は、今後予定されている生活保護基準の引下げに強く反対するものである。

2018年1月26日

山梨県弁護士会
会長 
堀内寿人