最低賃金は、公益代表、労働者代表、使用者代表の各同数の委員で構成される最低賃金審議会の審議・答申を得た後に、都道府県労働局長が決定する。例年どおりであれば、山梨地方最低賃金審議会は、本年8月頃に答申する予定である。
2024年度の山梨県の地域別最低賃金は、時間給988円である。この金額は、前年度から50円の引上げとなったものの、全国の加重平均である1055円を大幅に下回る実態は放置されたままである。時間給が988円だと、正社員を含むフルタイムの労働者(一般労働者)の平均的な月間実労働時間(約152時間)を基準に算定すると、月額給与は約15万円に留まり、手取り額にするとさらに減額される。令和5年の山梨県人事委員会の調査によると、甲府市の一人世帯の平均的な生活費が約12万円であることから、このような最低賃金の水準では、貧困の解消、労働者の生活の安定や向上を図る上で不十分である。
また、直近の消費者物価指数が前年と比べて約3%上昇しており、今後も上昇が続いていくことに照らすと、労働者の生活を守り、経済を活性化させるためには、このような物価の上昇を労働者一人一人の賃金に反映させることが重要である。
さらに、同年度における隣接都県の地域別最低賃金は、東京都が1163円、神奈川県が1162円、埼玉県が1078円、静岡県が1034円、長野県が998円となっており、全ての隣接都県よりも最低賃金が低いという、山梨県と隣接都県との最低賃金格差の問題は、解消されていない。
他方で、最低賃金の引上げは、中小企業の経営に大きな影響を与える。
中小企業の経営を長期的に支援し、従業員の雇用を保護していくためには、業務改善助成金制度等の充実は勿論として、例えば、社会保険料の使用者負担分の減免といった思い切った中小企業向けの施策もワンセットで検討されなければならない。
以上のとおり、中小企業に対する施策も重要であるものの、物価が上昇し、貧困と格差が拡大している状況をふまえ、労働者の健康で文化的な生活の確保と地域間の経済格差の改善のためにも、山梨地方最低賃金審議会及び山梨県労働局長に対し、最低賃金の大幅な引上げを求めるものである。
2025年6月12日
山梨県弁護士会
会長 大西達也